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第31話

「言う訳ないじゃん! 単に同性愛に偏見持ってるだけだよ。あとは就職先の出世とか、世間体気にしてるんだと思う」 「あー、納得。出世な」  拓人が頷いたところで、ポケットの中のスマホが着信を告げて震え出した。  振動の長さから電話だろうと予想し、いそいそと手に取り、画面に表示された名前に鼓動が少しだけ早くなる。 「ごめん」 「おー」  拓人に一言告げてから応答し、耳に当てる。「何?」と短く用件を促せば、聞き慣れた声が鼓膜をくすぐった。 「もう家ついた?」 「まだ。もうすぐつく」 「そっか。じゃあ十五分くらいで行くね。お兄さんってケーキ好き?」 「んーどうだろ……嫌いじゃないと思うけど、和菓子の方が好きだと思う」 「そっかぁ」  純の返答を聞いて少しだけ気落ちしたような声音になったのが引っかかり、問い返す。 「なんで? 買ってくるの?」 「いや……うん、純の好きそうなイチゴのケーキ買ったからお兄さんの分も買ったんだけど、他のにすれば良かったね」 「それならいいんじゃない? 気持ちの問題だし。てか、そんな気ぃ遣わなくてもいいのに」 「気を遣ってるんじゃないよ。ポイント稼ぎ」 「正和さんでもそういうの気にするんだ?」 「俺をなんだと思ってるの」  彼はくすくす笑ったあと、少しだけ声を張る。 「それに。早く認めてもらわないと、純が寂しいって泣くからね」 「正和さんこそ俺をなんだと思ってるの!? 泣くわけないじゃん」 「えー、そうかなあ。この前泣いて──」 「泣いてはない!」 「……ふーん? じゃあ、そういうことにしておこうかな」  そんな他愛のないやりとりを終えて通話を切ると、拓人がからかうような笑みを浮かべる。 「なんだ。心配してたけど、仲はちゃんといいんだな。むしろ危機に直面して燃えてる感じか」 「うん、正和さんとはなんともないよ。ていうか燃えてるって、別に……!」 「ひゅー、あつあつー」 「~~っ……じゃ、また明日」 「おー」  言い返そうとした言葉を飲み込んで、別れの言葉を口にすれば、拓人は楽しそうに笑って歩いていった。  

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