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第34話
「俺も……兄ちゃんとは仲良くしたいと、思う。でも今のまま納得できる理由もなく否定し続けるなら、もう話し合うのも無理だよ……」
自分の気持ちを素直に告げ、誠一の顔をじっと見据えるが、彼からの反応はない。
精一杯歩み寄ろうとしたのに相手がこんな態度では、これ以上は何を言っても無駄だろう。純は諦めて部屋に戻ろうと背を向ける。
(なんで……何も言わないんだよ)
けれど、階段へ向かって歩き出した直後、いつもより少し低めの声が純を呼び止めた。
「お前は……この先のことをちゃんと考えてるのか?」
静かに、それでいて強く問いただすような声音に思わず足を止め、誠一の話に耳を傾ける。
「あの人と一緒になって、それがいつまで続くんだ?」
「なっ……!」
「仕事はどうするつもりだ? あの人のとこで働くのか? それもいいだろう。だが、お前に何ができる? 別れたらその後はどうするんだ?」
「それ、は……そもそも、別れるつもりなんて」
先程までのはぐらかすよいな回答とは違い、はっきりとした口調で質問を矢継ぎ早にされて、純は言葉に詰まった。
なんとか答えようとするが、その声は自分でも情けないくらい尻窄 みになる。
「──わかった。仮にその関係が続くとして、この国で、男同士で付き合い続けるということが、どういうことか分かってるのか? 偏見の目に晒されることもあるんだぞ。しかも相手はあんな大企業の社長だ。ずっと隠れて付き合い続けるのか? 誰にも祝われずこそこそと生きたいのか?」
「っ……そんなことは、言われなくても分かってる! その上で一緒になるって決めたんだ」
その辺りはもちろん考えなかったわけじゃない。だが、そういうのを含めたとしても、彼がいいと思えたから将来を誓い合ったのだ。
「それに……社長って言っても、そんなのただの役職だし関係ないだろ。隠れて付き合うのはどんな仕事してたって変わらないじゃんか」
「屁理屈を言うな。なら、世間体のために妻を迎えたら? 本人が望まなくてもあの立場なら十分にありえるだろう。跡継ぎ問題だって出てくる。そうなればよくて愛人、最悪捨てられるだろうな。隠れて付き合えばそういうことなっても泣き寝入りするしかないんだぞ」
「……そういうのは……姉弟に任せるって、言ってたし」
一度は自分でも考えたことを再度指摘されて声が震える。正和には心配ないと言われたし、話し合って納得したけれど、こうしてまくし立てられると判断力も鈍ってくる。
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