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第9話

◇ アルバートは言い終えて、少し後悔した。 ーーこんなこと、いきなり聞いたって困惑させるだけだろう。 案の定、リオルは片眉を潜め、困ったようにぱちぱちと何度か瞬きを繰り返している。 「ごめん、…変なこと聞いた」 アルバートは慌ててそう言い、気まずさから俯いた。 二人の間に、沈黙が流れる。 何とか話題を変えなければと、アルバートが頭を巡らせていたとき、ふとリオルが呟いた。 「…答えなんて、ないのではないか」 不意打ちに、え、とアルバートが聞き返すと、リオルは躊躇いながらも、続ける。 「その問いの答えが出ているなら、とっくのとうにどちらかが滅びているはずだろう。どちらも自分達が正義で、被害者だと思っているから、争いは無くならない」 「…じゃあ、どうすれば」 確かに、とアルバートは納得しつつ、更に質問をぶつけた。 ーー自分は、道筋が欲しい。 これからどうして行けばいいのか、どうして行くべきなのか、その答えが欲しい。明確な答えが。 縋るように見つめるアルバートに、リオルは静かに首を横に振った。 「……それは、私が教えることではない。アルバート、オマエが自分で考えることだ」 「えー…」 てっきり答えをくれるものだと思っていたアルバートは、予想外の言葉に、肩を落とした。 ーー答えは自分で考えろだなんて、まるで学校の先生のようなことを言うのだな。 目に見えてがっかりするアルバートに、リオルはくすくすと笑った。 「…まあ、あまり思い詰めるな。焦らずとも、その内きっと答えは出る」 「なにそれ、…案外楽観的なんだな、リオル」 「これをしなければ、あれをしなければというきっちりした人生より、大雑把に適当に生きている方が、私には合っているんだ」 「ふーん、そんなもんか」 ははは、といつにも増して快活に笑う目の前の獣人を見ていると、アルバートも何だか楽しい気分になってくる。 「…あーもー、めんどくせぇ。なんか、アンタ見てたら、全部どうでも良くなってきた」 アルバートは大きく溜息をつくと、にやりと笑って、傍に寝転ぶ獣人の身体に思い切り抱き着いた。 突然のことに、リオルは状況を理解出来ず、固まる。 しかし数秒後、自分が何をされたのかに気がつくと、急速に顔を赤く染めていった。 「な、っ……なにを」 「ちょっと硬いけど、あったかい」 「よせ、さっき離れろと…」 「やぁだ。俺、今日はこのまま寝るから」 頰を赤く染め、ぱたぱたと尻尾を振るリオルに、アルバートは声を立てて笑った。 その笑顔に、嫌がっていたリオルも、困ったように眉尻を下げ、一緒になって笑い出す。 静かな寝室に、二人の楽し気な笑い声が響き渡る。 懐かしい、とアルバートは思った。 ーー家族と過ごしたときも、こういう風に、何でもないことに楽しそうに皆で笑っていたっけ。 アルバートは懐かしい思い出に浸りながら、リオルの胸板に顔を埋めた。 「…眠くなってきた」 「待て、まさかこのまま寝る気か…?」 「当たり前でしょ。おやすみ、リオル」 「おい、待てっ……!」 焦ったようなリオルの声に、アルバートはまたくすくすと笑って、心地よい気分の中、そっと目を閉じた。

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