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第5話

 現に抱きすくめられても昴を突きのけるどころか、呆然と立ち尽くすのみ。  相次ぐ衝撃に、真輝はむちゃくちゃ混乱していた。弟に言い寄られた時点で軽く許容量を超えた。  追い打ちをかける形で、想像の中で犯されていたことが暴露されたのだ(と、はっきり言われたわけではないが嬲りたい放題に嬲られていたに決まっている)。  ギョエエエエで、どひゃあああああ、なのだ。  昴はドサクサまぎれに尻たぶをまさぐり、生唾ごっくん。しなやかで、抱き心地抜群の肢体に覆いかぶさって既成事実を作ってしまいたい誘惑に駆られたものの、からくも(こら)えた。これ見よがしに(はな)をすすりながら、切々と訴える。 「築三十年のボロアパートだけど、ここを愛の巣に無双の愛を育んでいきたい、いこう」 「巣……そうだ、夏休みの自由研究に蟻の巣を観察したっけね」    おっとりと、いなされた。天使の笑顔に毒気を抜かれて、昴はへなへなと(くずお)れた。絶望の淵に沈み、そこに、すかさずカンペが。 〝不屈の闘志の持ち主が愛の勝者となる〟。  きらびやかな装いも相まって、ドンマイと身ぶりで伝えてくる、ばななマンは後光が射して見える。  昴は一秒で復活し、真輝は自分が辱められる妄想がツボにはまってしまい腰をもぞつかせた。  空気がほのかに桃色がかり、それは求愛者というガスタンクに火を放つに等しいものだ。  お慈悲で先っちょだけ()れさせて、おれの穴は出すほう専門、などとドタバタ喜劇の様相を呈す。  そして盆踊りの輪がゆがんでいくように、前に後ろにずれていったすえに、舞台は真輝の部屋に移った。  ある意味、飛んで火に入る夏の虫。 「意識改革。さよう、桐原兄の意識改革を進めることが幸せにつながる」  ばななマンが両手の指でハートを形作った。やおらシーツの一部を虫眼鏡で拡大して曰く、 「いわゆるガマン汁が何滴かこぼれ落ちたものをティッシュで拭きとった痕跡を発見した。まだ新しい。推測するに今朝方、自慰に耽った名残である」

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