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引力

橋に着くといつかのように川の流れを眺める。相変わらず濁った流れ、深く力強く勢いよく流れていく水に、またも引き付けられる。 この頃は影を潜めていたはずの、底知れない虚しさが、三歳の心を満たす。 三歳はまた、いつかのように、欄干から身を乗り出す。橋の外側、今にも落ちそうな状態で、数センチせりでたコンクリートの足場に立ち、もう一度川の流れを見下ろす。 その一瞬、あの日の柳下の言葉が頭を過る。 「あぁ、なに、してんだろ。」 涙も何も出やしなかった。ただ、三歳には何ひとつ分からなかった。 自分は何をしているのか、何のためにここにいるのか、どうしたのか、どうしたいのか、何ひとつ、分からなかった。 ただ、ただただ、深く急な川の流れが冷たそうで、その闇が三歳の何もかもを溶かし、隠してくれそうで、素晴らしく魅力的なものに感じられた。 その引力にひかれ 三歳は 足を一歩 踏み出した。 三歳が次に目覚めたのは、その翌日の昼前、病室でのことだった。目を開いたその先にはトラバーチンの天井があった。全身にだるさ、左腕に違和感、そして左足に激しい痛みを感じた。 見ると腕には針、点滴。足には白い固定材と包帯。打ち身と骨折と言ったところだろうか。 周りを見渡しても誰もおらず、カーテンで仕切られた狭い空間には、知らない誰かの寝息が漏れ聞こえるばかりだった。 誰かを呼ぶべきなのだろうが、三歳は気力を感じられず。再び目を閉じて、体勢も変えず時が流れるままに横になっていた。 しばらくして、三歳の方へと近づいてくる足音が聞こえた。一体誰だろうか。三歳はそうして初めて思い至る。どうやって、ここまで運ばれて来たのだろうか。 三歳のすぐ近くで止んだ足音に、カーテンの方を見やる。 「沢田さん、失礼しますねー。」 女性の声がした直後、カーテンが開く。ひとりの看護師らしき人物、そしてその後ろには、 可愛らしい男性と、 柳下がいた。 「沢田さん、目を覚まされたんですね!」 看護師らしき人物はそう言って、三歳に2,3質問をし、軽く容態を確かめたあと、医師を呼びに行った。 残された柳下ともうひとりの男性は、三歳に目をやり、ひとまず安定していることにほっとしたように息をついた。

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