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肯定

話をきくと、どうやら柳下がもうひとりの男性と出掛けていた折、橋を通りがかったらしく、三歳が橋から落下したのを目撃し、男性が救急車を呼んでくれたらしい。 川から引き上げ、落下したのが三歳であることを確認した柳下は相当驚いたそうだ。 見知らぬ男性も柳下も、三歳が無事でよかった、とそればかり口にしていたが、その話をしている間中、三歳が気になっていたのは、全く別のことだった。 それは、見知らぬ可愛らしい男性と柳下が、どうとらえても恋人のようにしか見えない、ということだった。 終始ほっとしたと呟く男性の隣で、柳下は見たこともないような優しい顔で笑っていた。 それを見て三歳は、 二人に礼を言おうと口を開きかけたとき、先ほどの看護師に連れられて医師が入ってきた。 柳下と男性の二人は、医師と入れ違いに帰ってしまった。柳下は帰り際に、それじゃあまた、と言っていた。次はいつ会うのか、また、スポーツクラブでということだろうか。三歳はそう思い至り、先々のことを思いやるのは億劫だと、それ以上考えるのをやめた。 それからは特に大きな変化も問題もなく、窓の外を眺める生活が2週間ほど続いた。退院の日まで、見舞いにくる人物もおらず、三歳はじっくりと自分の気持ちと向き合うことができた。 久方ぶりにスポーツクラブに顔を出すと、皆が三歳に「心配していた」と声をかけた。 それは三歳に少なからず衝撃を与えた。 三歳は、幼なじみから距離を置きたいと言われたことや、好きになったひとに恋心を告げる勇気がない、という程度のことで自分を見失っていた。まして、自分のことを気にかけてくれるひとなどいないと、半ばヤケになっていた。 三歳は見えていなかった。三歳の周りにはたくさん、ひとがいる。三歳を思うひとがたくさん、いるのだ。 それからは人間関係を改め、自分も思いを返せるようにと、少しずつ三歳は自然とそういった考えを持てるようになっていった。 三歳の生きる意味はそんなもので十分だった。 そのまた数日後に三歳はスポーツクラブで柳下と遭遇した。 「沢田くん、退院したの?」 柳下はいつも通り、軽く挨拶を交わすように三歳に声をかけた。 「はい。あの時はお世話になりました。」 「なんか顔色いいな」 「、、、おかげさまで、」 三歳は少しの胸の痛みを覚えつつも、笑顔で言葉を重ねる。生きることに肯定的になれたためか、失恋の痛みを実直に感じることができた。 その日はそれ以上の会話もなく、柳下と分かれた。しかし、三歳はそれから数日、柳下のことを思いもやもやとした気持ちを抱えて過ごすことになった。

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