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侮蔑

「何でこんなとこに?」 三歳は柳下に返す言葉がみつからず、ただ口をぱくぱくさせていた。その時、玄関の扉を開き出てきた橋本が代わりに口を開く。 「あ!(りゅう)おかえり!」 それから、橋本が事の経緯を柳下に伝えた。そして三歳は柳下から一緒に夕飯を食べようと誘われた。 しかし、三歳はふたりの仲睦まじい様子を見ていられなかった。ろくな返事もせず、逃げるように立ち去り、気がつけばまた、橋の上から川の流れを見下ろしていた。 川の流れを見つめながら、三歳は小さくうめき声をあげる。溢れ出る涙が止まらなかったのだ。 柳下を好きだ という、抱いてはいけない思いを抱えて、どうしようもなくなってしまった。 苦しい。悲しい。辛い。悔しい。こんな風に後ろ向きな自分が嫌いだ。三歳は激しい自己嫌悪を抱く。自分の行動さえ、まともに制御できなくなる。 その恐怖と絶望に抗いもせず、言葉にならない声を叫ぶ。 それから、背後の気配に気づいた三歳は、うめき声をあげたままふと来た道を振り返る。そこには柳下と、その後ろに橋本の姿がみえた。 「おい、大丈夫か?ちょっと落ち着け。」 柳下が三歳の腕を押さえながら声をかける。 「離して、離してくれ!!」 叫ぶように言う三歳を落ち着けようと、柳下はなおも声をかけ続ける。 「大丈夫だから。深呼吸できるか?」 三歳の息はにわかにあがる。ぜぇぜぇと絶えず呼吸をしながら、 柳下を振り切るように身をよじる。 「離せよっ!!!」 「俺はっ、あんたっ、がっ、好きなんだよ!」 「なんで!?なんでこんな、こんなことっ、」 叫ぶように告げられる三歳の言葉を、柳下は眉間にシワを寄せながら聞いていた。何も応えず、止めもせず、ただ聞いていた。 それからしばらくして、少し落ち着いた三歳を自宅まで送ると、あまり言葉を交わすことも、次の約束をすることもなく、柳下は帰っていった。 三歳はひとりになった部屋で、この数時間、ひどい有り様だった三歳を見つめ続けていた、橋本の冷ややかな侮蔑の表情を思いだしていた。

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