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逡巡
数日後、いつものようにスポーツクラブに来ていた柳下竜は、探すともなく、沢田三歳のことを探していた。
竜にとって、沢田はこれまでに関わったことのないような人物で、それ故に関わり方がまるでわからなかった。
数日前、恋人である玲のアパートでばったりと遭遇したときに、うっかり軽い感じで食事に誘ってしまった。沢田のことは以前から気にかかっており、どうにかして関わりを持てないかと考えていたからだ。それが間違いだったのかもしれない。
竜の誘いを振り切って、唐突に走り出す沢田はいつも以上に様子がおかしかった。放って置けばよかったのかもしれない。しかし、沢田を初めて見かけたとき、そしてその次に橋の上で見かけたときのことがことが思い出され、追いかける他なかったのだ。
「死ぬかもしれない」
そう呟いて玲と頷きあい、すぐさま後を追った。
追いかけた先、橋の上で呻いていた沢田を見つけた。飛び降りそうという感じではないが、ひどく疲弊していたようだった。
それから、叫ぶように告げられた竜への思いに、凄まじく納得がいったことを覚えている。
思えば、沢田は出会った頃から何かを抱え込んでいた。思い詰めた様子で、会うたびに辛そうだった。ここ最近はスポーツクラブでもよく見掛けていて、元気そうにしていたが、その実、抱えるものはむしろ増えていたのかも知れない。
沢田の思いを聞いた竜は即座に「断らなくては」とそう考えた。しかし、沢田の思考がつかめないばかりに、どう告げるのが正解なのか、それが分からなかった。
返す言葉を思索し、逡巡しているうちに沢田の自宅についてしまった。結局その日は言葉を返すこともできず、帰ってしまった。
もう1度会って話を出来ないだろうか。
今の竜はそう願うばかりであった。
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