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距離
三歳がひとしきり泣いて落ち着いたとき、橋本玲は穏やかな笑みを浮かべていた。
数日前、ジムで手につかない仕事をどうにか終えた帰り、建物の外に立っている橋本に「話があるから時間をくれ」と告げられた。どんな風に侮辱されるんだろうか、と身構えながら 今日、呼び出されたこの橋までやって来たのだ。
そのため三歳は不思議でたまらなかった。てっきり、責め立てられて、二度と会うなとか、そう言った類いのことを言われると思っていたのに、むしろ慰められている。
泣き止んで、どうすればいいのかわからなくなった三歳は、戸惑いながら橋本を見上げる。
橋本はどこかすっきしたように、三歳に微笑みかける。
「まぁ、僕はさ、三歳くんとは仲良くなりたいんだよ。だからさ、竜にはちゃんと、フラれに来なよ。」
予想外の発言に三歳は驚いた。
「なに変なこと言ってんの。」
「うーん、まぁそうかもね。
けど、自分から川に落っこちちゃうような子には必要なんだよ、友達が。」
「...う、ん。」
「それに、三歳くんなら来るでしょ?まっすぐなんだからさ、このままで終わるわけない。」
ほんの少しの間しか一緒にいなかったと言うのに、何が分かるんだろうか。ふと、三歳はそう思ったが、しかし橋本の言うことを否定はしなかった。
確かに三歳は、柳下にも、橋本にも、謝りに行こうと思っていたのだ。
また、その時に浮かんだのは聖夜のことだった。長年連れ添っていながら、最後はあっさりしたものだった。三歳は距離を置くことなど望まなかったが、聖夜はそう望んだ。
それは聖夜の意思で決定したことだとばかり考えていた。けれど、案外、違うのかも知れない。
橋本の言葉を聞いて、三歳にも、付き合う人間を選ぶことは可能なのだと気が付いた。
ちゃんと柳下にフラれれば、そうして、橋本と仲良くなれればいいな。
「...そうだと、いいな。」
そっと呟いて、橋本と並んで川を見下ろす。
フラレた相手と友達に、恋したひとの恋人と友達に、なんて、そんな変な形でやっていけるのか、疑問ではある。ただ、橋本がそう望んでくれているのなら、あとは三歳が思いを吹っ切るだけだ。
今はまだ微妙な距離をはらんで、ふたりは川を見下ろしていた。
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