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【7】
「あぁ……っん! 動いたら……奥、入っちゃう……っ」
「奥がイイって言ったのは……お前だ、ろ!」
VIPルーム内に散らかったのは、足元に敷かれた毛足の長いラグの上の二人分のスーツだけではなかった。
静夜の甘い嬌声と広武の息遣い、そして繋がった場所から発せられる卑猥な水音と、むせ返るほどの香水の香り。
革張りのソファに深く凭れた広武を跨ぐようにして向かい合った静夜は、汗に濡れる彼の癖のある前髪を見てはクスッと肩を揺らした。
そのたびにグッと腰を突き上げられ、中にあるものが静夜の繊細な粘膜を激しく擦りあげた。
幼い頃に初めて経験した時と変わらない質量が、静夜の中にぎっちりと隙間なく埋まり、その熱は焼け爛れそうなほどに増していく。
「な……なに、する……んあっ! はぁ、はぁ……っ」
「人の顔見て、笑う……とか。ホント……あの時と、変わ……んないっ」
「だって……。クルッて……あんっ! カワイイ……んっ。あぁ……あんっ」
広武のくせ毛は生まれつきで、濡れると見事に丸まってしまう。当時からイケメンだった彼のウィークポイントとも言えるそのくせ毛が静夜は大好きだった。
だから、わざと暑い時に部屋のエアコンを切ってみたり、一緒にお風呂に入ったりもした。
野性的なこげ茶色の目を細めて絶頂への階段を駆け上がっていく広武の顔が堪らなく好きだ。
互いに与え、そして与えられる快楽。
それが愛であったと知った今、静夜は自身の名を捨てても良いとさえ思い始めていた。
初恋は実らない――誰がそんなことを言った?
最初は好奇心だけだったかもしれない。でも――広武のペニスは静夜だけを求めていた。
静夜もまた、離れてしまった広武の幻影を抱きながら、欲しくても手に入らない物を他の誰かで代用しているうちに、記憶の奥底に沈めてしまっていた。
「あぁ……イク……また、イッちゃう……っ!」
「好きなだけイケよ。だがな……まだ半分しか入ってないぞ? 全部……挿れても、いいか?」
「ダメッ! あぁ……広武の、欲し……ぃ」
「どっちなんだよ……。ったく、ワガママな女王様だなっ。ほら、自分で腰、落とせっ」
「怖いっ! 広武の……おっきい……から、壊れ……ちゃ、うっ!」
肩にしがみ付くようにして膝で体を支えている静夜が愛おしくて堪らない。「壊れちゃう」と言ってはいるが、彼の蕾はすでに小学生の時に開発済みだ。しかも、広武のモノを難なく受け入れている。
「壊れない……」
耳元でそう囁いてやると「ふあぁぁ」と気の抜けた声を発し、必死に踏ん張っていた膝から力が抜けた。
ぐにゃりと崩れ落ちた静夜の腰を掴み寄せ、広武の方もぐっと腰を突き上げた。
彼と離れてから、セックスで快感を得ることが出来ずにいた広武。やっと巡り合えた最愛の男の中に入っている喜びに、いつもの様な余裕はひと欠片も残ってはいなかった。
「んはっ……キツ……いっ。あぁぁぁっ!」
大きく張り出したカリが繊細な粘膜を押し広げながら奥へと吸い込まれていく。その刺激だけでイキそうではあったが、静夜は今までに誰も到達したことのない未開の地へ広武を誘った。
「あぁぁ……! あ、あ、あぁ……っ」
「湊太……っん! 深い……っ」
蕾の薄い襞が限界まで広がり、広武のペニスの根元まで咥え込んだ時、静夜の体がガクンと揺れた。
「あわぁぁぁ……はふぅ。んあぁぁぁっ!」
茎の根元がきつく締めつけられ、中の粘膜がゾワリと動いた瞬間、広武の腹に大量の白濁が飛び散った。
それは、静夜が小刻みに痙攣するたびに吐き出され、どろりと粘度のある精液が腹を伝い、下生えに流れ落ちていった。
「――湊太っ」
脱力して後ろに倒れそうになった彼の背中を慌てて引き寄せた広武は、ぼんやりと焦点の合わない目を彷徨わせる静夜を強く抱きしめた。
「はぁぁぁ……あぁ……気持ち、いいっ! ビリビリって痺れて……あぁ……堪んないっ」
うわ言のように呟く彼の唇を啄みながら腰をゆらりと動かすと、先程までとは比べ物にならないほど甘い嬌声が上がった。
未開の地――彼のS字結腸を広武のペニスが突いた瞬間だった。
先端に圧迫感を覚え、更に茎全体を包み込む熱の温度に、広武もまた腰の奥から湧き上がる甘い痺れに抗う事が出来なかった。
「あぁ……イイ……お前の奥、気持ちいいっ」
「やあぁぁ……動いちゃ、いやぁぁ! また、イ……イッちゃう……んあぁぁぁぁっ!」
ビクビクと腰を震わせて短い間隔で絶頂を迎えた静夜に引き摺られるように、広武も隘路を一気に駆け上る熱に身を委ねた。
「イク……ッ! っぐ、あぁぁぁっ」
「ひゃぁぁぁぁっ! 熱い……奥、熱い……っ」
「俺だけの湊太……。この奥にいっぱい子種を注いでやる……」
「あ、あぁぁぁ……。いやぁ……赤ちゃん、出来ちゃうっ!」
金色の髪を振り乱して息を乱す静夜にはもう、自我は残ってはいなかった。
広武のペニスをきつく食い締めたまま狂ったように腰を振る。そして、彼の充血したペニスからは吐精することなく何度も顎を上向けてイキ続けた。
彼が上下に動くたびに、中に吐き出された精が結合部からトプリと溢れ、二人の腿をしとどに濡らし続けた。
青い匂いがぶわりと拡がり、その濃度が脳髄を痺れさせる。
「ここを……他の男にも触れさせたのか?」
涙目になりながら首を横に振る静夜に、広武はさらに畳みかける。
「お前のもう一つの処女……。フフッ、全部俺のモノになった」
「俺は……おにぃの……モノだって! 最初から……あぁぁっ」
彼の意地悪を咎めるかのように、背中に回した静夜の手に力が入り、立てた爪が肌に食い込む、その痛みさえも快感にすり替わり喜びへと変換されていく。
着飾ったスーツはもう、そこにはない。生まれたままの姿で互いの肌を触れ合わせれば、自分を偽る必要もない。
広武の腕の中にいるのは、寂しがり屋で自己嫌悪ばかりの可愛い辻本湊太だ。
毎夜、その素顔を隠すためにいろんな仮面を被り、客に見せていたホストの顔。その中には広武の知らない顔もあったはずだ。
でも、今はそんなものはどうだっていい。自身のペニスに貫かれ、ただ快感に酔いしれる蕩けた表情の彼だけを見ていたい。
わずかに唇を開き、目尻に涙を溢れさせながら啼く静夜。その愛らしさからは想像がつかないくらい貪欲に広武のペニスを食い締める内部。
(すべて……愛してる)
下から激しく突き上げられ、肌がぶつかり合う破裂音が響く。グチュグチュと音を立てる後孔の入口がピリリと引き攣れ、広武の太いモノが静夜の中で更に膨らんだ。聞こえるはずのないドクドクと脈打つ音が振動して蠢く襞に伝わるたびに、静夜の中が歓喜に震えた。
「あぁ……また、イキそうだ。湊太……いっぱい出すぞ」
「ちょ……らいっ! 精子……欲しいっ」
「ちゃんと孕ませてやるから、心配……する、なっ!」
「あはぁぁぁん! 広武……好き! 愛してる……いっぱい、愛して……るぅ!」
「はぁ、はぁ……イクよ……んあっ! ぐぅ――っ!」
「あ……っ! あ、ひぃぃぃぃ――っ!」
静夜の最奥で灼熱の奔流が迸り、その熱に意識が遠のく。広武もまた、内腿をブルブルと震わせながら、この日のためにたっぷりと溜め込んだすべての精子を静夜の中に注ぎ込んだ。
寂しかった。何かに飢えていた。それが何なのかも分からずに、ただ歩き続けていた。
静夜の心の奥に隠されていた広武への想いは、見えないところで成長し、想像を絶する大きさになっていた。
水面に揺蕩う落ち葉のように浮上した静夜は、溢れた涙で頬を濡らしながら言った。
「――も、離れない」
「湊太?」
「離さない……。絶対に……俺の、モノだから」
唇を震わせてそう囁いた静夜は、広武の腕の中で気を失った。それでも繋がったモノは離れることはなかった。
「俺も……だよ。大切な湊太……。愛してる……愛してる。何度言っても足りない……」
濡れた頬に金色の髪を纏わせて、ぐったりと体を委ねる彼の姿は、まるでおとぎ話に出て来る純粋無垢なお姫様のようだった。何も知らなかった少年を穢し、何よりも愛してしまった。
最初に続き、二つ目の処女を我が物にした男は、いろんな客を誘い続けて来たその唇に触れ、そっと魔法をかけた。
「――誰にも触れさせない。俺だけを愛して」
唇の隙間から覗いた舌先に自身の舌を絡めながら、筋肉を薄く纏った白い体を強く抱きしめた。
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