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第3話 出会い
「北の狼国では、αの白金狼王が年頃になり、発情期を迎えたらしいが、どうしてもΩ狼の『運命の番』が見つからんで大騒ぎになっとるな」
「それで海を渡って、わしら犬族の住む大陸まで、番探しにやってきたってのか」
「王自ら兵を率いて、ゆく先々の都市で門を無理矢理ひらかせ、犬族Ωを献上させていると聞くぞ。この街に来るのも時間の問題だ」
「犬が狼の運命の番になれるのかい?」
「狼国で候補が見つからんから、仕方なく探しとるんだ。王の強烈なフェロモンは番を得ないとおさまらんからな」
「狼にわしら犬が敵うはずがない。全く厄介なことだ」
男娼館で、椅子に腰かけ酒を飲みつつ順番待ちをしている客の前を通りながら、ロンロは男らの噂話を聞いた。
「おいっ、うす汚え恰好で、俺たちの前を通るんじゃねえよっ!」
いきなり腰を蹴られて、ロンロは床に転がった。手にしていた布袋がひっくり返り、少ない荷物があたりに散らばる。
「す、す、すいません」
慌てて拾い集めると、ロンロは頭をさげて客から離れた。
小柄な身体に、着古した麻の服。ボサボサの灰色の髪に小さな耳の犬族ロンロは、この娼館で働く少年だった。しかし、男娼というわけではない。見た目が貧素で色気のかけらもなく、顔も不細工なロンロは十八歳の今日になるまで全く客がつかず、ついに今夜、他の奴隷商人に売られることになっていた。
大人しい性格のロンロは、そっと目立たぬように部屋のすみまで移動した。蹴られた腰をさすりつつ、引き取り手の商人が来るのをじっと待つ。そうしていたら、この娼館で一番人気のララレルが客を送って商売部屋から出てきた。
「やあロンロ。まだいたのかい」
色鮮やかな長衣の裾を払いながら、けだるげに話しかけてくる。
「うん、ララレル。今まで仲よくしてくれてありがとうね」
「お前と仲よくしてきたつもりはないよ。知ってる? お前、ガレー船に売られることになってるんだって。あそこじゃあ、手足に枷をつけられて、朝から晩まで船をこがされるんだってね。お前、チビでひ弱だから三日で死んじゃうよ、きっと。あはは」
ララレルは綺麗な顔をした犬族少年だった。ピンと張った栗色の耳に、手入れの行き届いた同じ色の髪。瞳も栗色。顔立ちは愛らしい。
この獣人の世界では、犬族も狼族も、そして遠い地に住む他の動物族らも、かつてこの世に住んでいたヒトの姿と、古の自分たちの獣姿と、そしてその中間の姿を自在に取ることができる。
ほとんどの動物族は、一番生活しやすいヒトの姿になって、種族を示す耳と尾だけを出して暮らしている。ロンロも頭の上に小さな耳と、ズボンの尻部分から、ちょこんと丸い尻尾を見せていた。
「そんな怖いこと言わないでよ。泣きたくなっちゃうじゃん」
怖がりのロンロが身を震わせる。
「仕方ないさ。だって孤児で雑種で不細工じゃあ、他にどうしようもないんだもん」
ララレルの冷たい言葉に、ロンロはしゅんと耳を垂れた。
犬族は、見た目の美しさや身体の大きさで、その価値が決まってくる。ララレルはかつては血統書つきの家柄だった。没落してここに来たが、いつかは金持ちに身請けされるだろうと言われている。
反対に、どんな犬種の血が混ざっているのか全く不明の、生まれも定かではないロンロなどの雑種は、犬社会では最底辺の地位におかれてしまう。
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