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第4話
「せめて発情すれば、客もついたのにね。お前、ホントにΩなの?」
そうたずねるララレルは発情期をとっくに迎えたΩで、首には革のベルトがはめられている。これは、うなじを不用意に客に噛まれないようにするためだった。Ωはうなじを噛まれると、その相手と番が成立してしまう。だから番のいないΩは大抵、身を守るために首輪をしていた。
「ちんちんの形はΩだって、ここのご主人様に言われたけど」
ロンロにも一応、首輪がつけられている。まったく無用の長物と化しているのだが。
「ホントはβなのかもね。まあ、どっちにしろ不細工」
ララレルが手をひらひらさせて、次の客を呼びよせる。順番待ちしていたうちのひとりが、舌をハッハッと出して駆けよってきた。
客と一緒に仕事部屋へと入っていくララレルを見送り、また壁にもたれかかったロンロは、ふと、何か不思議な匂いを感じ取って、鼻をクンクンさせた。
何だか、刺激のある甘い香りがする。嗅いだことのない、鼻腔を突き抜ける奇妙な香りが。
そのとき、入り口の扉が大きな音をたててひらかれた。
「狼族が街にやってくるぞ!」
この館の主である太った親父が、叫びながら中に入ってくる。
「北の山脈を越えて、平原に入ったらしい。すぐにここに来る」
「何だって? 平原は遙か彼方だぞ」
「狼族の足の速さを知らんのか」
館主は建物の奥へと走っていく。
「Ωを集めろ! 地下二階の倉庫に隠せ!」
廊下に並んだ扉を順番にあけて、仕事中の男娼たちからΩを選んで連れ出す。
「領主はΩを差し出せと言うだろうが、そうはいくか。大事な商売道具を取られてたまるかい」
ララレルも半裸の恰好で、客から引き剥がされてきた。何が起こっているのかわからないといった顔で他のふたりのΩと共に、階段へと背を押される。
「おい、ロンロ、お前もΩだろ。こっちへ来い」
館主に引っ張られて、ロンロも階段をおりた。
「お前が狙われる心配はないだろうが、万一、狼族に見つかったときは、お前だけ部屋から出てこい。それで奴らをごまかせ。他の三人は藁の中に隠れてろ」
地下二階は真っ暗で、奥にかび臭い倉庫がある。そこに四人は押しこめられた。
「白金狼のフェロモンにあてられたら、犬なんか狂い死にするぞ。いいな、何があっても声を立てるな。苦しくても騒ぐんじゃないぞ」
そう言い残し、館主は扉に鍵をかける。真っ暗な中で、四人は身をよせあった。
「……変な匂いがする」
男娼のひとりが怯えながら言う。
「苦しいよ、この匂い。甘すぎて吐き気がする。喉が痛い」
「白金狼って、北の狼国の王様だろ?」
ララレルが袖で鼻と口を押さえているのか、こもった声で言った。
「だったら、すっごい金持ちなんじゃないの? 運命の番を探してるって言ってたけど、もしも選ばれたら、めちゃくちゃ贅沢な暮らしができるんじゃない?」
「何言ってるんだよ、ララレル、発情期の狼なんかに犯されたら、僕たち犬は抱き潰されるどころじゃないよ、死んじゃうよ」
もうひとりが泣きそうな声で答える。
「怖いよ、怖い。狼なんて大嫌い」
「俺は怖くなんかないね、王様ってどんな姿をしてんだろ、恰好いいのかな」
ララレルが平気そうな声で言う。けれど、彼の背中に触れていたロンロは、その背筋が小さく震えていることに気がついた。
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