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第6話

「……ひ、ぃ」 「Ωだな。間違いない」  フェロモンに苦しめられている四人は、逃げることもかなわなかった。 「全員、外に連れ出せ」  額に玉石の飾りをつけた、ひときわ威厳のある狼が、後ろの兵に命令する。控えていた狼兵らが一歩踏み出そうとしたとき、上階から大きな声が響いてきた。 「陛下! 御自らお出向きになられる必要などございませぬ! このような薄汚い場所に、お入りにならないで下さい!」  空気が蜂蜜に変わってしまったかのようだった。甘く重苦しい熱の塊は、もう吸いこむことさえできない。  大きく喘いだその瞬間、扉をくぐり抜けて、白金に輝く美しい姿が現れた。  それは、一匹の大狼だった。額に金の飾りをつけ、背に金銀刺繍の施されたマントを羽織っている。瞳は銀色、ふさふさした毛はけぶる白金だ。誰に言われずともわかる。この狼が、白金王だ。 「見つけたぞ」  威風のある、けれど涼しげな声が、白金狼より発せられる。 「我が運命の番だ」 「なんと!」  控えていた、多分、家臣であろう狼が驚愕の声をあげた。 「どれだ? 私の花嫁は?」  狭く薄汚い倉庫で、身をよせあって苦しむ四人に顔を向け、王が吠える。ロンロは苦痛も忘れて、その華やかな姿を見つめた。 「……わたくしで、ございます、王様」  四人の中から、ララレルが這うようにして、皆の前に出た。 「わたくしが、貴方様の、運命の番で、ございます。さあどうか、わたくしめを、抱いて下さいませ……」  媚びを売る笑顔で、王を見あげる。  王は訝しむ表情をした。そして一歩を踏み出す。ララレルの匂いを嗅ぎながら、服の首元をくわえた。――と、思ったらいきなり部屋の隅に投げ捨てた。 「ひやっ」  ララレルはコロコロと転がっていった。 「違う。これではない」  一言告げて、残りの三人のところにやってくる。怯える三人に、順番に鼻をよせて、いきなり歯をグワッと剥いた。 「これだ」  そして、ロンロの服の胸元に食いつき、力任せに引っ張った。王がぐるりと首を回したので、ロンロは部屋の真ん中にコロンと放り出された。 「これが、我が運命の番だ。やっと見つかったぞ」  その言葉に、狼たちがどよめく。おおおっと低い声が部屋に響き渡った。しかしそれは喜びの声ではなかった。驚愕と、落胆と困惑と、さらにロンロに対する憎しみがこめられていた。 「そんな馬鹿な! これは犬族の中でも最底の位の雑種ですぞ! 北の大陸に君臨する狼国の王の番が、このような、こんな下賤の者が、番など、あり得ませぬ!」 「陛下、これは何かの間違いです。我ら王国五百年の歴史の中でも、こんなことは一度も起こりえませんでした。民は許さないでしょう、犬の、しかも薄汚い、しかも、男娼などとは」  狼たちの吠え声に、ロンロは恐ろしくなって身を竦ませた。一体、何がどうなっているのか訳がわからない。 「――殺しましょう」  狼の群れの中から、冷酷な声がした。 「そうすれば、次の番を探しにいけます」

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