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第11話

「ホントに、素敵な王様だよねぇ」  横で見ていたララレルも、ほうっとため息をつく。 「なんで、あんな立派な王様が、貧相な雑種犬などを妃にすることになっちゃったんだろうね」  全く不思議でしょうがないというように、首を傾げる。 「それは僕も、同じように思ってるよ……」  どんな運命のいたずらか、自分のような孤児の犬を、番にしなければならなくなるなんて、もしかしてとんでもなく不幸な王様なのではないか。  王が部屋を去ると、入れ違いにひとりの知的な老人が入ってきた。長いローブを着て、手には本と文具を抱えている。ロンロ専属の学師だった。ロンロがあまりに無知なので、妃になるための知識をつけさせるために王が用意した教師だ。 「学びの時間です、ロンロどの」  厳めしい顔つきの老人は、テーブルに羊皮紙と羽根ペン、インク壺をおいた。そして、手本となる本を広げる。 「はい。わかりました」  ロンロは学師の見守る前で、字の練習をした。ロンロは読み書きができない。今まで学ぶ機会が全くなかったからだ。ペン先をギリギリとしならせ、線を延ばしていく。丸めたり、点を打ったり。一通り文字を書くと、ふう、と息をついて、学師に見せた。老人は眉間に深い深い皺を刻んだ。 「何ですかこれは……。ひどい、ひどすぎる」  ありえない、と言うように目をとじて天を仰ぐ。 「自分の名前も書けぬ王妃など、前代未聞」 「すいません……」  ロンロは、しゅんと耳を垂れて項垂れた。 「学師様、僕のも見て下さい、ほらほらこれ、すごいでしょう」  横からララレルが自分の書いた字を学師に差し出す。従者なのに、ララレルも一緒に勉強をしていた。まるで王妃になるための準備をしているかのようだ。けれどひとりでこんな苦行を受けるよりは、ララレルがいてくれたほうがずっと気持ちが楽になる。 「そうだな。お前はそれなりに、きれいに書けておる」  ララレルが鼻の穴を大きくして、「ふふん」と言った。 「だって僕は血統書つきの家柄なんですから。これくらい、どうってことないですよ」  学師はララレルには構わず、ロンロに怖い顔を向けた。 「さあ、せめて読める代物にしあげなさい。犬で奴隷で、字も書けぬなど、狼国の王妃としては認められませぬ」  そしてロンロは、指にタコができるほど、字の練習をさせられた。  次には休憩も挟まず、狼国の歴史について学ばされる。 「……この地、北の大陸に狼族がやってきたのは今から三千年前。狼国が建国されたのは五百年前。大陸には七つの狼の国があるが、我が国が一番領土が広い。それは白金王の努力の賜である。この大陸の狼の毛は、銀、灰、黒、茶と様々であるが、白金の毛色を持つ狼は王ただひとり。それは、我が国の伝説と重なっている」  初めてきく昔話に、ロンロもララレルも聞き入った。 「昔々、この大陸に、ひとりの虹色の毛をもつ雌狼が天より降りたった。彼女は地に住む雄狼と恋に落ち、番となった。虹色狼は白金の美しいα狼を生んだ。それが、王家の始まりである。虹色の狼は女神として今もこの地に祀られている。そして代々、白金王は運命の番であるΩ狼を求める。それのみが、跡継ぎとなる白金狼を産むことができるからだ」 「では、僕は」  学師はそこで話をとめた。全く信じられないというように、首を振る。

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