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第12話

「犬族が、王妃に迎えられたという記録はない。もしかしたら、何かの間違いかもしれん」  そうであってほしいのだが、と老人はこぼす。ロンロも同感だった。 「犬だって、元は狼と仲間みたいなもんだろ。だから交わって子だって成せるのだし。狼だからって偉そうだよな。犬を差別しすぎ」  ララレルが顔をよせてきて、不満そうに呟く。 「王のなされることに間違いはないと思いたいが、この国の民は誰ひとりとして納得していない。王は婚礼の儀を急ぎたがっておられるが、家臣や教会は、そろって声荒く反対しておる。話しあいは膠着状態じゃ」   「……」  ロンロは自分の知らないところで、何か大変なことが起こりつつある予感に、不安を覚えて小さな身を震わせた。 「全く、厄介なことだ。運命の番などと」  学師がため息をつく。 「運命の番を解消するにはどうしたらいいんでしょうかね」  ララレルがたずねる。 「どちらかが死ぬまで、解消はされぬ。Ωが死ねば、αは新たな番を探しにいけると聞くがの。しかしそうなれば、また花嫁捜しの大騒ぎが始まるのかと思うと、それも気が重い」  老いた学師はやれやれと耳を寝かせた。  ロンロとララレルが顔を見あわせていると、部屋にグラングが側近と共にやってきた。 「どうだ、勉学ははかどっているか?」  グラングがテーブルに近づき、優しげな微笑みを浮かべる。ロンロが羊皮紙を隠そうとすると、それを取りあげられた。 「ひどいものです」  学師が隣でぼそりと嘆く。 「そうか? とてもうまく書けていると思うが」  グラングにほめられて、ロンロは恥ずかしさに顔を赤くした。 「陛下、陛下、僕のも見て下さい」 「これ。礼儀知らずの従者め」  学師に叱られても気にせず、横からララレルが自分の書いたものを差し出す。グラングはそれにチラと顔を向けるとすげなく言った。 「ロンロのほうがうまい」 「えええええっ」  ララレルがショックを受ける。 「頑張っているな。偉いぞ、ロンロ。ほうびは何が欲しい」 「何も、いりません」  ブルブルと首を振ると、王はまた微笑んだ。 「さあ、学びの時間は終わりだ。私も今日はもう仕事をしない。ベッドにいこう」  グラングからは甘い官能の香りがする。かつては広い範囲に振りまかれた香りは、今はロンロだけが嗅ぎ取ることのできるものとなっている。番になると、互いにしか匂いが判別できなくなるのだ。  胸をときめかせる芳香に、ロンロの下半身も、はしたなく呼応してしまう。恥ずかしさに頬を染めると、ロンロからもΩの香りが匂い立つのか、グラングが口元をほころばせる。 「お前たちはもうさがれ」  命令されて、部屋から皆が出ていく。グラングはロンロを横抱きにすると、居間の隣の寝室へと運びこみ、毎夜のことだが、朝まで執拗に愛したのだった。

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