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第13話 王の森で

「王様は目が悪いのかなあ」  回廊を歩きながら、ララレルがぼやく。 「まさか」 「じゃあ、運命の番効果で、視界が歪んでるんだな。だって、お前のこと、いっつも可愛い可愛いって連発してるし。この僕を前にしてあり得ないよ」 「そうだねえ」  ロンロは納得して頷いた。 「お前さ、毎日、王様とガッツリエッチしてるけどさ、勘違いしちゃいけないんだぞ」 「何が?」  ロンロが小さな頭を傾げてきく。 「王様がお前を可愛がるのは、お前が運命の番だからなんだ。だから、貧相で不細工でも結婚したいと思っちゃうんだぞ。もしも、俺が運命の番だったら、王様は俺にメロメロなんだからな」 「うん、……そうだね」  ララレルの言葉に、ちょっと傷つく。 「お前なんて、運命のΩじゃなかったら、すぐに捨てられちゃうんだからな」 「うん、ちゃんとわかってるよ」 「ならよし」  今日はあいた時間に暇を持てあまし、ふたりで城内の散歩に出ていた。部屋の中だけにとじこもっていると息がつまる。犬とはいつも、どこかを走り回って遊びたいという欲求を抱えているものだ。  中庭をひとしきりふたりで駆け回って、満足して部屋に戻ろうとしていたら、離れた場所から大きな声が聞こえてきた。 「そんな馬鹿げた要求など、のめるはずないだろう!」  怒鳴っているのは、グラングのようだった。ふたりは咄嗟に大きな石造りの柱の陰に隠れた。横からそっと、声のするほうを見渡す。  回廊の先で、大広間の扉があいて、中から王と家臣らが出てきた。 「陛下。落ち着いて下さい。これは、陛下のための提案なのです。そして、この王国のための最善策なのです」 「王妃はロンロだ。それ以外は認めん」 「運命の番が、妃にならねばならないという決まりはありません」  グラングと言い争っているのは、禿げかけた薄い銀髪に、銀色の耳の、恰幅のよい壮年の狼族だった。贅沢に刺繍のほどこされた上衣と、その下に長衣を着ている。首からは玉石の沢山ついた首飾りをさげていた。先端に女神像のついた杖を手にしている。 「司教であるお前が、決めることではない」  グラングが歯を剥く。すると怒りからか、顔だけ狼に変化した。王の獣化に、周囲にいた家臣らが後ずさる。いきなりの変身は彼の怒りの大きさを表していた。 「教会は、あの雑種犬を妃と認めることはできません」  司教と呼ばれた男も、一歩も引かない。耳の周囲が総毛立つ。 「私に、命令するな。いいな、結婚式は予定どおり執り行う。一日たりとも遅らせるな」  グラングは司教に冷たく命令すると、くるりと踵を返してその場を離れた。  残された司教らは、王の後ろ姿を見送りつつ、大きく落胆のため息をついた。 「困ったものだ」 「あの犬をどうにかしないと、教会の威信が揺らぎます」 「教会どころか、国家存続の危機だ。犬など娶ったら、近隣諸国のいい笑いものになってしまう。国民も、奴隷だった雑種犬が王妃になるなど絶対に認めんだろう。暴動がおきたらどうする」  狼族の話し声に、ロンロは震えあがった。ここで見つかったら八つ裂きにでもされそうで、ロンロとララレルは狼たちに見つからないよう、そっとその場を離れた。

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