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第15話
「どちらに?」
「何、朝の散歩だ」
そう言って、ロンロの手をペロリとなめる。
「昔は日課にしていたのだが、ここのところ、眠りが深くて早朝に出かけることはなくなっていた。けれど、今日は少し眠りが浅くてな」
白金狼は目を細めた。
「お城の外を散歩されたのですか。いいなあ、僕もいきたかったです」
なかなか外出できないロンロは、羨ましくなってそう答えた。それにグラングが「ふむ」と首を傾げる。
「そうだな。お前ならば連れていってもいいか。では、これから一緒にいくか?」
「え? いいのですか」
「朝日がのぼるのを一緒に待つのも悪くない」
ロンロは嬉しさに、くるりと身を跳ねさせた。すると灰色の小さな犬に変身する。
「ついてこい、少し、飛ばすぞ」
「はい。大丈夫です」
毎晩、沢山エッチをするけれど、ご飯も一杯もらえているし、好きなだけ寝させてもらえている。だから朝になれば元気が戻っている。ロンロは嬉しさにぴょんぴょん跳ねた。散歩大好き。どこへでもいける。
グラングが窓を飛び出る。部屋は二階にあったが、すぐ下に屋根があった。そこを伝って、城の外に出る。
王都は立派な城壁に囲まれた広い都市だ。その北側に城がある。そして城の背後には、森と丘があった。グラングは森を抜けて、丘の天辺まで一気に駆けていった。ロンロもその後を追いかける。こんなに力一杯走ったのは久しぶりで気分が高揚した。
丘の頂上には大きな樹があった。濃い緑色の葉を茂らせて堂々とそびえている。太い幹の根元につくと、グラングはやっと立ちどまった。遅れてロンロも、彼のもとにたどり着く。
「ついてこられたな。さすがわが妃」
優しいグラングは、こんな些細なことでもほめてくれる。ロンロは叱られるばかりの人生だったのでとても嬉しかった。
グラングはやわらかな草の生えた場所にロンロを導くと、そこで一緒に腰をおろした。大きな身体と尻尾を使ってロンロを抱えこむようにする。
「どうだ、この景色は」
眼下には城下町が広がっていた。立派なお城や、高い塔や、美しい彫刻の刻まれた聖堂が見える。
「すごく、素晴らしいです」
語彙の少ないロンロは、それだけしか言えなかった。けれど、グラングは楽しそうに微笑んだ。
「ここは王の森と言って、代々の王しか入ることができない」
「そうなのですか? そんな神聖な場所に、僕が来てもよかったんですか」
「よい。お前は特別だ」
グラングが、ロンロの顔を舐める。くすぐったくて気持ちいい。
「私は幼い頃から、ひとりになりたいときはいつもここに来ていた」
「グラングはひとりになりたいのですか」
もしかして、ロンロがそばにいる生活が嫌なのか。そう思ってしまったロンロが焦ってきくと、そうではない、というように首を振る。
グラングが遠くに目をやる。その横顔が、すこし淋しげなものに変わった。
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