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第17話 対立

 グラングはいつも優しかった。  ロンロのことを大切に扱い、沢山の贈り物をくれて、あいた時間があれば居室まで様子を見に来てくれた。  けれどグラングがロンロを大事にすればするほど、王宮の中では、家臣や司教らと王の間に、修復不可能な亀裂が生じていっているようだった。  ――薄汚い奴隷犬。  ――犬の分際で、狼の上に立てると思っているのか。  陰口が耳に入るたびに、自分はここにいないほうがいいのではと悩んでしまう。しかしどうしていいのかわからない。グラングは王の権限で、ロンロのことについては誰にも口を挟ませなかった。  ただひとり、司教を除いては。  司教は色々と理由をつけて、結婚式を引き延ばそうとした。やれ式典用の蝋燭が届かないだの、衣装が間にあわないだの、聖堂の補修が始まっただの。  そしてついに、ある日、グラングと司教は真っ正面から衝突した。 「虹の首飾りは、建国以来、正妃のために使われてきた儀式用の品です。それを、犬との婚礼に使うことは許されませぬ!」 「虹の首飾りは王家が保管している。教会が口を挟むことはできない」  家臣らとの会議がひらかれている広間の、扉の前をちょうどロンロが通りがかったときに、中から大声が聞こえてきた。  ロンロは隣にいたララレルと共に歩をとめた。 「代々、この国の王妃の首にかけられていた品を、汚すのはおやめ下さい」  扉のすみに身をよせて、ララレルと耳をそばだてる。王はそれに冷静に答えた。 「なぜ、汚すことになるのか。ロンロは私の運命の番である」  部屋の中の会話が途切れる。これ以上の言い争いは不毛だというように、暫くして司教や家臣の数人が扉から出てきた。ララレルとロンロは急いで近くの柱の陰に隠れた。 「王は気が触れていらっしゃる」 「誠に嘆かわしい。一体どうしたらあの犬を処分できるのか」 「……」  司教がわずかに押し黙る。そして低く唸るように言った。 「王には、きちんとわかってもらわねばならない。これがどれほど、愚かなことなのか」  司教は気味悪いくらいの暗い表情でそう言うと、家臣らと共に、その場を去っていったのだった。

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