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第20話
「ではお前を自由にしてやろう。今すぐ、故郷へ送り返してやる」
そうして、手を伸ばしてくると、なぜかララレルの腕を掴んだ。そして立ちあがらせる。
「運命の番など、もういらん。私はどうせひとりだ」
ララレルを引っ張って、入り口まで歩いていく。皆も驚いた顔で、王を見ていた。
「陛下!」
廊下にいた老学師が近よってくる。そして、グラングの前に立ち、ゆく手を阻んだ。
「陛下、おしずまりください」
王の腕にそっと手をあてて、耳打ちする。
「その者は、ロンロ様ではありません」
グラングの眉が、ピクリと持ちあがった。
腕を掴まれていたララレルはビックリした顔で、王を見ている。
グラングは、一瞬だけ、瞳を宙にさまよわせた。何か、自分の犯した間違いを探るかのように。眼差しはいつもと違い、虚ろだった。
それから、ララレルの腕を放すと、ひどく不機嫌な顔をした。
部屋の中を再度見渡すようにし、怒りを抑えた声音で命令する。
「皆、ここを出ていけ」
一言だけだった。けれど、それで部屋の入り口にいた十人ほどが、黙って扉から離れていった。
グラングの前にいた学師も、ララレルを連れて部屋を出ていく。
残されたのは、ロンロだけになった。
「……グラング?」
白金王は、ロンロに背中を見せたまま動かなかった。
ロンロはふらつく身体を引き起こし、グラングに一歩近よった。
「もしかして……グラングは、目が、……見えないの?」
グラングは答えなかった。
静かな沈黙が部屋に満ちる。王は威厳をもって佇んでいたが、やがて大きく息をついた。
「――見えぬ訳ではない」
「……え」
「ものの形を認識できないのだ。色も、大きさも、モザイクのように壊れている。そして見るたびに形を変える。十三のときに、頭に怪我を負って以来、その狂った世界の中で生きている」
グラングの声は冷静だった。
「このことは、国民にも、他国にも秘密にしている。白金王の目が壊れていると知れたら、近隣諸国が不穏な動きをするかもしれないからだ。けれど嗅覚と聴覚は研ぎすまされているし、事情を知っている側近が、いつも近くで手助けしているから見えている振りもできていた」
ロンロには後ろ姿を見せたまま喋り続ける。
「お前には、どう伝えようかと迷っていた。白金狼がこんな者でと、落胆されたりしたらやりきれなかったからな」
「そんな、そんなこと、思ったりしません」
ロンロはグラングに駆けよった。そして、背中を抱きしめた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、グラング。僕は、僕は……っ」
腕を前に回して、ギュウッと力をこめる。
「嘘をついてごめんなさい。本当はそばにいたいんですっ、あなたのことが好きなんです。けれど、……だって、僕がいると、グラングが困るからっ」
「ああ、やっぱりそうだったのか」
グラングは、ロンロの小さな手を上から握ってきた。
「では、お前は、私に抱かれるのは嫌じゃないんだな」
「嫌じゃないです。全然嫌じゃない。すごく気持ちいいです」
ロンロが正直な気持ちを告げると、グラングはやっと安心したように笑った。
「私もお前のことが好きだよ。可愛いロンロ」
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