20 / 28

第20話

「ではお前を自由にしてやろう。今すぐ、故郷へ送り返してやる」  そうして、手を伸ばしてくると、なぜかララレルの腕を掴んだ。そして立ちあがらせる。 「運命の番など、もういらん。私はどうせひとりだ」  ララレルを引っ張って、入り口まで歩いていく。皆も驚いた顔で、王を見ていた。 「陛下!」  廊下にいた老学師が近よってくる。そして、グラングの前に立ち、ゆく手を阻んだ。 「陛下、おしずまりください」  王の腕にそっと手をあてて、耳打ちする。 「その者は、ロンロ様ではありません」  グラングの眉が、ピクリと持ちあがった。  腕を掴まれていたララレルはビックリした顔で、王を見ている。  グラングは、一瞬だけ、瞳を宙にさまよわせた。何か、自分の犯した間違いを探るかのように。眼差しはいつもと違い、虚ろだった。  それから、ララレルの腕を放すと、ひどく不機嫌な顔をした。  部屋の中を再度見渡すようにし、怒りを抑えた声音で命令する。 「皆、ここを出ていけ」  一言だけだった。けれど、それで部屋の入り口にいた十人ほどが、黙って扉から離れていった。  グラングの前にいた学師も、ララレルを連れて部屋を出ていく。  残されたのは、ロンロだけになった。 「……グラング?」  白金王は、ロンロに背中を見せたまま動かなかった。  ロンロはふらつく身体を引き起こし、グラングに一歩近よった。 「もしかして……グラングは、目が、……見えないの?」  グラングは答えなかった。  静かな沈黙が部屋に満ちる。王は威厳をもって佇んでいたが、やがて大きく息をついた。 「――見えぬ訳ではない」 「……え」 「ものの形を認識できないのだ。色も、大きさも、モザイクのように壊れている。そして見るたびに形を変える。十三のときに、頭に怪我を負って以来、その狂った世界の中で生きている」  グラングの声は冷静だった。 「このことは、国民にも、他国にも秘密にしている。白金王の目が壊れていると知れたら、近隣諸国が不穏な動きをするかもしれないからだ。けれど嗅覚と聴覚は研ぎすまされているし、事情を知っている側近が、いつも近くで手助けしているから見えている振りもできていた」  ロンロには後ろ姿を見せたまま喋り続ける。 「お前には、どう伝えようかと迷っていた。白金狼がこんな者でと、落胆されたりしたらやりきれなかったからな」 「そんな、そんなこと、思ったりしません」  ロンロはグラングに駆けよった。そして、背中を抱きしめた。 「ごめんなさい。ごめんなさい、グラング。僕は、僕は……っ」  腕を前に回して、ギュウッと力をこめる。 「嘘をついてごめんなさい。本当はそばにいたいんですっ、あなたのことが好きなんです。けれど、……だって、僕がいると、グラングが困るからっ」 「ああ、やっぱりそうだったのか」  グラングは、ロンロの小さな手を上から握ってきた。 「では、お前は、私に抱かれるのは嫌じゃないんだな」 「嫌じゃないです。全然嫌じゃない。すごく気持ちいいです」  ロンロが正直な気持ちを告げると、グラングはやっと安心したように笑った。 「私もお前のことが好きだよ。可愛いロンロ」

ともだちにシェアしよう!