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第22話 陰謀
翌日、ロンロとグラングのもとに、司教がやってきた。
「教会は、ロンロさまを正妃と認めることに致しました」
司教が銀色の耳をピクピクさせながら告げる。
「王の幸せこそが、この国の幸せ。ひいては教会と信徒の幸せと悟りました」
慇懃な物言いで、うっそりと笑みを浮かべた。そのいやらしげな微笑みは、グラングには見えていない。ロンロは不穏な空気を感じた。
「その代わり、私の解任を教皇庁に訴えることだけはやめて頂きたい」
司教の言葉に今度はグラングが笑う。
「いいだろう」
どうやら、水面下で王は司教を辞めさせようと画策していたらしい。ふたりは互いの利益を取引したのだった。
「ありがとうございます」
司教はグラングに礼を言った。
「では、早速明日より、式の準備にとりかからせて頂きます」
三人が話しているところに、侍女が飲み物を運んでくる。盆にのった三つの杯を、それぞれに手渡していった。杯の中にはロンロの好きな林檎酒が入っていた。
「陛下と、新たな妃に、幸あれ」
司教が杯を掲げて、酒を飲み干す。
ロンロも口元に杯を持っていった。林檎酒の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
しかし一口飲もうとしたそのとき、バタンと大きな音を立てて、部屋の扉がひらかれた。
「すみませんっ、失礼しますっ。ロンロに、大切な用事がっ」
部屋に入ってきたのはララレルだった。緊張した面持ちで、ロンロのもとに早足で近よってくる。腕をグイと掴んで小声で言った。
「ちょっとこい」
「え? 何? どしたの」
そのまま、引っ張られて外に出る。ふと振り返ると、憎々しげにこちらを睨んでいる司教と目があった。
何事かとうろたえるロンロを廊下の隅まで連れていくと、ララレルは顔をよせてきた。
「林檎酒に、毒が入っている」
「えっ」
「さっき、教会の信徒のひとりが、林檎酒の準備をしているところを偶然見たんだ。『毒を仕込め、それで犬は死ぬ』と言っていた」
「……本当に」
「ああ。お前が死んだら、俺が運命の番になれるかもだし、黙ってようかなとか、ほんのちょっとだけ魔がさしちゃったけど、やっぱ、目の前で死なれたら嫌だし。だから助けにきた。司教の用意した酒は飲んじゃダメだ」
「うんわかった。ありがとう、ララレル」
ロンロはララレルの手を握って礼を言った。
「君は命の恩人だよ」
「おう、死ぬまでそのことよく覚えておけよ。いつか恩返しもしろよ」
「絶対するよ」
ロンロが涙目になると、ララレルも微笑む。やっぱりララレルは大切な友達だ。狼国に一緒に来てもらって本当によかった。そう思っていたら、部屋の中から大きな音が響いてきた。
ガシャガシャガシャーン、と卓や椅子をひっくり返す音がする。
「何だ?」
ロンロとララレルは慌てて引き返した。部屋に入ると、グラングが真ん中で仁王立ちをしていた。
苦しげに息をつきつつ、見えない目をギラギラさせている。
その近くに、冷酷な顔の司教が立っていた。
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