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第2話
問:小説とは何か。800字以内で答えよ。
文芸部が使っているという空き教室に入ると、黒板に書かれた文字が目に飛び込んできた。
前の高校の文芸部は、ぬるいポエムかなろう小説くらいしか書いていなかったが。
ここの部は多少マシな活動をしているのかもしれない。俺はそんな感想を抱く。
と、そばでカチリと小さな音が鳴った。
何かと思えば今くぐったドアの脇で、ひとりの生徒がストップウォッチを押していた。
「回答時間は今から30分」
その彼がストップウォッチを押しつけてくる。
「原稿用紙がそこにあるから、2枚取って空いてる席に座って」
渡されたストップウォッチを見ると、それはタイマー設定になっていた。
表示された時間はすでに29分55秒を切っている。
回答? 原稿用紙? いったい何が始まったのか。
減っていく数字を目にし、俺は一瞬パニックに陥った。
周りを見ると、数名の生徒が席で原稿用紙のマス目を埋めている。
静かな教室に、時計の針の音とカツカツという鉛筆の音が響いていた。
彼らは黒板に記された問題を解いているのだろう。
俺はもう一度その問いを確認する。
小説とは何か、か。面白いじゃないか。
どうせ暇なんだ、30分くらい付き合ってやってもいい。
400字詰めの原稿用紙を2枚取り、俺は空いた席に座った。
考えてみると、小説というジャンルを定義づけるのは難しい。
小説は、和歌や俳句のような韻を踏むものではない。つまり韻文でなく散文の形を取る。
だが散文イコール小説にはならない。
詩やエッセイ、論文や公文書、ビジネス文書その他もろもろを除外する必要がある。
詩と区別するために”一定の長さが期待され”、文芸以外の文章と区別するために”事実や考えをそのまま述べるものではない”、とでもするべきか。
しかしこれでは除外項目で絞り込んだだけで、小説というものの実体がつかめない。
小説の本質は何か。そこに目を向けてみる。
小説の起源はやはり物語だろうと思う。
日本で言えば『竹取物語』、世界に目を向ければギリシア神話などか。
だがこれらはもともと口承、つまり口伝いで伝わったもので、小説とは呼べない。
小説はやはり文字を使い、文章の形であるべきである。
それを考え合わせると、”散文形式で描かれたフィクション。ただし詩よりもボリュームがある”、とでもするべきか。
長編詩と短編小説の垣根が気になるが、そこは作者次第だ。
作者が詩だと言えば詩、小説だと言えば小説だろう。
そんなことを考え文章にしていくと、規定の原稿用紙2枚はすぐに埋まってしまった。
俺は息をつき、握っていた鉛筆を置いた。
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