19 / 41

第19話

真上からの眼差しを受け、息もできずにいた時――。 突然、バタバタと足音が近づいてくる。 「泉きさまッ、こンの不届き者が~ッ!!!」 そちらを振り向いた瞬間、顔面めがけて上履きが飛んできた。 月形の下敷きになっている俺に、突然の攻撃をよけるすべはない。 「ぐわっ!!」 ゴムと足の匂いのする上履きが顎にヒットした。 上履きを投げてきたのは、月形親衛隊最先鋒のチョーク男である。 「月形さんに何をした……今すぐッ、月形さんから離れろー!」 「いや、この状況、どう見ても俺の方が何かされてる立場だろ……」 「……だね」 上に乗っている月形が、上半身を起こして肩をすくめた。 「お前も笑ってないで早くどけ!」 そう言うと、月形がようやく俺の上からどいてくれる。 「ごめんね、泉くん」 「なんに対する謝罪だよ……」 下敷きにしたことなのか、無理やりキスしてきたことなのか。 なんにしろ、チョーク男が来てくれてよかった。 あのままキスが続いていたらと思うと恐ろしい。 「つーか上履き、よく洗えよ。足の匂いすごいから」 俺はため息をつきながら、チョーク男のそれを投げ返した。 それにしても……。 棚に本を戻す月形の後ろ姿を見て、思わず華奢な腰に目が行ってしまう。 その腰を抱き寄せたい衝動に駆られてしまい……。 (くそっ! キスしたからってなんだっていうんだ) 妄想を振り払うように、俺は月形の持っていた本を奪い取った。 「俺が片づける。お前がまた転ぶと面倒だ」 「ああ、うん。ありがとう」 月形は素直に俺に従いながらも、じっとこちらを見ている。 「……なんだよ?」 「ううん、なんでもない」 戸惑うように伏せたまぶたが、妙に色っぽく目に映った。 ダメだ、俺はまだ動揺している。 「な、な、なんなんですかこの甘ったるい空気は……!? 月形さん? まさか……まさか違いますよね??」 チョークが泣き出しそうな顔をする。 「うるせーよ! 全然甘ったるくなんかないだろっ!」 俺は手に持っていた本でその頭をはたいた。

ともだちにシェアしよう!