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第34話
「見た? 先週の投票結果」
月形が向かいから、開いたノートPCの画面を見せてくる。
ブラウザには、高校文芸部合同のワンライのページが開かれていた。
「1位、誰だったと思う?」
そういえばこのワンライは、お題の発表とともに前回の作品への投票が締め切られる。
だから先週の結果が出ている頃だった。
そして月形は俺の作品に投票したと言っていた。
作品は投票結果が出そろうまで無記名での掲載なんだが、こいつには俺の書いたものが分かるらしい。
「もったいぶらずに教えろよ」
飲みものを飲みながら促すと、月形がページをスクロールして投票結果を見せてくれた。
「なんと! 1位はぶっちぎりで、我が校のエース・泉隼人くんの作品でした!」
「……へえ」
なんというか、めちゃくちゃ反応に困る。
一応プロなんだから高校生に勝って喜ぶのもどうかという気持ちと、純粋に認められた喜びと、それからホッとする気持ちと。
……そうだ、俺はホッとしているんだ。
俺は今まで、プロ作家だからこそ高校生レベルじゃいけないと、自分をがんじがらめにしていた。
でもちゃんと、書いたものが認められた。
それが高校生レベルでの金メダルでも、全然いいじゃないか。
俺は着実に前へ進んでいる。
「どう? 初登場で1位になった感想は」
月形がキラキラした目で言ってきた。
「んー」
「んー、って。嬉しくないの?」
「嬉しいよ」
「だったらもっと嬉しそうな顔すればいいのに」
ちゃぶ台越しに月形の顔が近づいてきて――。
(おおおっと!)
いきなり鼻先にキスをされた。
「こらっ、こんな場所で何すんだ……」
「だって泉くん、ずっと難しそうな顔してたから」
月形が笑いながら言ってくる。
「それで……そうやって俺の表情を変えて楽しいのか……」
俺としては、本当に反応に困るからやめてほしい。
「楽しい。好き」
「……!」
ここで「好き」も、同じく反応に困るからやめてほしい……。
「……帰ろう」
荷物をまとめて立上がると、月形が慌てた顔で俺の制服の裾をつかまえた。
「待って、お風呂は!? せっかく来たのに入ってかないの?」
「今日はいい、疲れたし」
「疲れたからこそお風呂でしょ!」
いや……本音を言うと、この空気で月形と風呂に入る自信がない。
こいつは普通にじゃれついてくるけれど、大丈夫なのか? 公共の場で、ヤリたい盛りの恋人同士が裸で向き合うとか……どう考えても危険だ。
冷静に、避けなければならない。
「ここはよそう。どうしても風呂に入りたければうちのを貸す」
すると今度は月形の顔に、動揺の色が広がった。
「泉くんそれは……えっちなお誘いですか?」
「違う、そんなわけない」
さすが文芸部部長、想像力がたくましい。
俺は自分のことを棚に上げてそう思う。
「違わないでしょ。それ以外で、友達を自分ちの風呂に誘う理由が分からない」
「んんん……そう言われてもだな……」
月形に絡まれながらも、俺は使わなかったロッカーの鍵を返して銭湯を出た。
この季節、放課後の空はまだ明るい。
「ここのお風呂、入ってみたかったのになー」
「それならお前一人で入ってきてもよかったのに」
「それは寂しいじゃん」
月形がむくれた顔をしてみせた。
けど、その目は笑っている。
なんだかんだで、俺たちの未来もそこそこ明るいんじゃないかと思えた。
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