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第35話

それから勉強と部活、そして長編の執筆に集中するうち、俺は高校3年の春を迎えていた。 3年になると受験勉強にも取り組まざるを得ず、部活はたまにしか顔を出せなくなる。 その代わりというのも変だが、月形が放課後、俺の部屋に来るようになった。 「泉くん、模試の結果どうだった?」 「まあまあだな、受験までにはなんとかなんだろ」 俺はC判定だったシートを月形に見せる。 「そういうお前は?」 「僕? Aだよ。B以下は取ったことないし」 我が部長は、俺の判定シートに目を落としたままのたまった。 「第一志望、東大文学部だったっけ?」 「うん」 「前から思ってたけどお前、案外頭いいよな……」 「案外ってなんだよ」 ようやく目を上げた月形が笑う。 こいつは好き勝手やっているように見えて、リーダーシップもあるし頭もいい。 そういう面を見ていると、将来は官僚か政治家にでもなるんじゃないかと思ってしまう。 本人は「まだ決めてない」とか言っているけれど。 「いーずーみーくん」 C判定のシートをテーブルに置いた月形が、意味ありげな笑顔でテーブルのこっち側に回ってきた。 今俺たちは、俺の住むマンションのリビングにいる。 「A判定のご褒美ください」 「なんで毎回Aのヤツに今さらご褒美が出るんだよ……」 「毎回頑張ってるんだもん、ご褒美くれてもよくない?」 一理あるような、そんなことはないような……。 横からくっついてくる月形の太腿を、俺は少し悩みながら見下ろした。 「一応聞こう、何がほしい?」 「…………」 「なぜそこで黙る」 「……いや、言わなくても分かってよ。なんのためにこんなにくっついてると思ってるの」 言いながら月形は、俺に腕まで絡めてくる。 (あー……そういうことか、どうする俺!?) 「泉くんの寝室に行ってみたいでーす!」 「下心アリアリだな……」 「だって僕たち、付き合い始めてそろそろ1年になっちゃうよ?」 「お前に手ぇ出すなって、母親から言われてんだよ……」 っていうか、今日はなんだか嫌な予感がする……。 「親の目を盗んで冒険するのも若者の特権でしょ!?」 「こらこら、月形~!!?」 強引に腕を引かれ、俺はソファから立ち上がった。 そしてこいつは勝手知ったる他人の家とばかりに、寝室のドアへ向かっていく。 まあ、案内してない部屋はそこしかないから分かるよな。 そして俺たちは制服のまま、ベッドになだれ込んだ。

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