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運命③

俺が心奪われた笑顔は無表情に、あの時の甘くて芳しい香りは恐怖と絶望の濁った臭いに変わってしまっていた。 ルカは身を縮こまらせて、ただ震えていた。 俺はこの仕事に就いてから、喜怒哀楽すべての感情を根こそぎなくした。 そして、男娼に惑わないように抑制剤を服用しているから、Ωには揺さぶられたりしない。 フェロモンを出さない代わりに、受けても影響がないように調整しているのだ。 だが目の前に、初めて心を動かされた相手が、不特定多数の男と関係を持つ男娼として現れた事に、かなりの動揺をしていた。 出掛かった戸惑いや焦燥や雑多な感情の匂いを無理矢理押さえ込む。 それをおくびにも出さぬよう、努めて冷酷な声音で問い掛ける。 「俺はここの楼主だ。名は何という?」 「…瑠夏(るか)…瑠璃色の「()」に「夏」…で、瑠夏といいます。」 震えながらもはっきりと答えた。 「ここで何をしなければならないのか分かっているか?」 「…はい。」 「ならば、しっかりと働き借金を返して、元の生活に戻れるように励め。 ところで瑠夏の両親よ。」 「はっ、はいっ。」 「お前達は血を分けた大切な息子を物として売ったのだ。 その事をよく肝に銘じて、一生の罪として背負って行け。」 「は、はいっ…」 「アクト!詳しい事を教えてやってくれ。」 ワザとそう言い捨てて、瑠夏の元から離れた。 そうしなければ、すぐさま駆け寄り、この腕にかき抱き、手放す事が出来なくなりそうだった。 それは楼主としての俺の終わりを示していた。 今夜は誰も来ないように告げ、部屋に戻り鍵を掛け、面を壁に叩きつけた。 パキンと軽い音を立て、真っ二つに割れて落ちた面は、俺の心のようで… 俺は拳を壁に打ち付けて泣いた。 泣いても叫んでも、あの子は“商品”だ。 年季が明けるまで、発情期をコントロールしながら男の欲望を咥え込まねばならない。 それならせめて…その“訓練”は俺が直々にしよう。 楼主が直接手を加える事は珍しくはない。

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