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運命④
ひらひらと桜の舞い散る中で笑っていたあの子の笑顔が忘れられない。
親が自分の保身のために、我が子を売るなんて。
今までも何十人とそういう親子を見てきたけれど、その金で贅沢三昧に暮らすつもりなのだろう。
『あなたに金の無心をするでしょう』
あの子はそう言っていたから。
金に執着のある部類の人間なのだろう。
壁に思い切り、何度も拳を打ち付ける。
次第に皮膚が破れ、壁を赤く染め始めていた。
この、割れた面のように元通りにならない俺の心。
そして…俺は、今後他の誰かを愛する事はないだろう。
心を鬼にしなければ。
我に返って血塗れになった拳を洗い、傷口を消毒して包帯を巻いた。
この痛みはあの子の痛み。
俺も一生心に秘めて生きていく。
一気に酒を煽り、布団に潜り込んだ。
いつもより酔いが回るのが早い。
乾いたシーツに涙が吸い込まれていく。
泣くのは今夜限り。
明日からは、また非情な楼主に戻る。
自分の立場を呪いながら、意識を手放した。
翌朝…
アクトを呼び出した。
「おはようございます。お呼びですか?」
「昨夜連れて来られた…瑠夏。
どうしてる?」
「ずっと泣いていたようですが、泣き疲れたのか朝方やっと寝付いたようでした。
朝食も少し口にしたようです。」
「そうか。あの子の訓練は、俺が直接やる。」
「え…楼主直々ですか?」
「そうだ。何か不都合でも?」
「いいえ…
訓練師達はそれぞれ担当中の子がいますから、手の空いている者は誰もいませんし。
楼主直々なら、千尋に続く人材になれるかもしれませんね。」
「そうだな。それと…
好きな物を聞いて食べさせてやってくれ。
今夜から…訓練を開始する。」
「…はい、承知致しました。」
余計な事は言わない世話役は、一礼してドアを閉めた。
今夜から始まる訓練は、勿論男を受け入れるためのものだ。
自らの後孔を解すことから覚え、どれだけ相手を溺れさせる事が出来るか、手練手管を叩き込むのだ。
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