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躊躇④
結局、欲望に任せて俺自身で破瓜させた後は、ひと通りの房事ができるように仕立て上げていった。
瑠夏は飲み込みが早く、戸惑い恥じらいながら身体を開く様は、この俺でも身悶えしそうなくらいで、最初の出会いが嘘のように、一人前の男娼へと変貌していった。
それがこの子にとって良い事なのか、果たしてその逆なのか…胸に燻る黒いモヤモヤとしたものの正体が分からず、俺はイラつきを隠せないようになっていた。
売れっ子になって、華花魁まで行かずともある程度まで昇り詰めれば、或いは、誰か良い人に身請けされれば、誰にでも抱かれるこんな生活から抜け出す事ができる。
「…楼主様…今夜はどうすれば…」
おずおずと瑠夏が声を掛けてきた。
「…明日から、お前を店に出す。
後はお前自身で道を切り開いて行け。
下がって今夜はゆっくりと休むがいい。」
そう告げると、瑠夏は覚悟を決めたような、それでいてすぐにでも泣きそうな顔をした。
胸がずきりと痛む。
ナイフで刺されたかのように。
仕方がない、これでいいんだ。
明日は初お目見えとなる瑠夏のために、頼んでおいた着物も もう届いている。
「楼主様、ありがとうございました。」
あの時のようにぺこりと頭を下げた瑠夏は、黙って部屋を出て行った。
追い掛けて抱きしめたい。
他の男達に触らせたくない。
このままここに閉じ込めて、俺だけのものにしたい。
胸を搔きむしらんばかりの嫉妬心がメラメラと湧き上がってくる。
そうか…
俺は、俺はあの子を愛してしまっていたのか。
今更ながら気付く己の心に、渇いた笑いが込み上げてきた。
たったひとりの心を寄せたひとを守れない、憐れな獣人。
全ての関わりもしがらみも何もかも捨て去って、あの子を攫って逃げる事ができるなら。
俺は、俺は…
その時、ノックの音が聞こえた。
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