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決別①

男を知った瑠夏は、無垢と妖艶さを兼ね備え、初値は瞬く間に跳ね上がった。 競り落としたのは、最近の上客のセリート。 穏やかな紳士然とした狐の獣人で、銀行の頭取だ。 相手をした男娼達の話によると、無体なことは強要しないし、何よりも人間のΩを馬鹿にしないと、評判も上々の人物だった。 瑠夏の初めての相手に不足はない。 俺は瑠夏と会わないように身を隠し、表の事はアクトとイリアスに任せて、執務をこなしていた。 宵闇が深くなるにつれ、頭をよぎるのは、共に過ごし身体を開いた時の、あの匂いあの声、あの姿だった。 今頃、あの(いろめ)かしい匂いと声をセリートに振り撒いているのだろうか。 キリリと胸が刺すように痛む。 頭も割れそうだ。 俺は毎夜、誰かが瑠夏を抱く度に、このような思いをせねばならぬのか。 しっかりしろ、ルーク。 お前は傍流とはいえ、王家の血筋じゃないか。 継母に疎まれ憎まれ、居場所のなかった俺が辿り着いた、唯一の城がここだ。 俺の母親は、王がお忍びで街に下りた時に出会い、愛し合うようになった庶民の獅子のΩだった。 王は、俺が生まれたのをそれはそれは喜んだのだが、それを知った王妃に命を狙われ、俺を庇った母は亡くなってしまった。 殺人を不問にする代わりに、俺を王族と認めるよう王妃に告げた王は、俺がひとりでも生きていけるようにと、元々あったこの楼閣を俺の名義にしたのだった。 それでもなお、命を狙われる事も度々あったが、俺が王位を継ぐ意思が全くない事と、王妃が病に倒れて物事の判断もつかない精神状態になったため、最近ではそういう物騒な事もなくなった。 「ひとりで生きていけるように…か。」 ひとり言をいい、頭痛薬を噛み砕いて飲み込んだ。 いい加減、諦めろ。 俺はひとりでいい。 窓から見上げると、三日月が空の高い位置にぽっかりと浮かんでいた。

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