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決別②
翌日、イリアスがご機嫌で出勤してきた。
「楼主、あの子はバケますよ!
早速長期の予約が入ってます!
どうやら争奪戦だったらしいのですが…
そのほとんどがセリート様が落札されたのですけどね。
余程気に入られたのでしょう。
千尋も美鶴も、うかうかとしてられないですよ!」
「そうか。」
「『そうか』って…それだけですか?
商売繁昌、良い事です!
華花魁が2人になると、さぞ見栄えがするでしょうねぇ。
あ…午後から面接希望の者が2人…14時でよろしいですか?」
「イリアス…」
「はいっ!…何か?」
「あの子…瑠夏の様子はどうなんだ?」
「アクトに聞いてきます。」
部屋を飛んで出たイリアスを見送り、昨夜からもう数え切れないくらいのため息をついた。
「楼主!大丈夫です!
セリート様に気を遣ってもらったらしく、普通に過ごしているそうです。」
「そうか、それならば良い。」
「楼主…」
「何だ?」
「いえ、何でも…コーヒーお入れしますね。」
聡いイリアスには、俺の心の揺れが分かったのだろう。
早く年季明けを済ませて、ここから去って行ってくれ。
俺の目の届かぬ所へ。
まだ癒えぬ胸の痛みと頭痛に顔をしかめながら、机上の書類を手に取った。
毎日毎日、同じ事の繰り返し。
夜の帳が下りる頃に、華やかに煌びやかに変貌する楼閣。
媚薬を含んだ甘い香りが漂う館内は、Ωの嬌声と笑い声が絶え間なく響く。
「お元気のないご様子。如何ありんしたか?」
「…あぁ、千尋。珍しいな、お前がこんな所へ来るなんて。」
「ご予約のイルビ様が体調不良でキャンセルになりまして。
まぁ、キャンセル料は たんまりといただきますから。」
うふふっ と妖艶に笑う華花魁。
流石に風格と気品に溢れている。
「気になりんすか?」
「え?」
「あの子…瑠夏。
中々評判もよろしおすなぁ。
中でもセリート様がご執心で、いつか身請けの話も出るやもしれませぬ。」
「…そうか…それならば、それもよし。
千尋、お前は誰に身請けしてもらうつもりはないのか?」
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