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約束①

男娼としてデビューしてからというもの、瑠夏は売れっ子の1人となり、あの恥じらうような奥ゆかしさはそのままに、意のままに客を手玉に取る男娼へと変わっていったのだった。 今では美鶴に並ぶとも劣らぬ人気を誇るようになっていた。 千尋はともかく、あの気難しい美鶴も、瑠夏を可愛がっているらしい。 誰からも愛されるような不思議な雰囲気を持つ瑠夏は、客だけではなく、楼閣で働く全ての者達から受け入れられる存在になっていた。 それを望んで店に出したのは俺だ。 あの笑顔が戻るようにと願ったのも俺だ。 蛹から蝶が(かえ)るように、美しく艶やかに色気を振りまく瑠夏を俺は遠くから見つめているだけだった。 王位を巡る騒動があった半年後の春、瑠夏が脱走を図った。 その理由は… “一度だけ会った獣人様との約束を果たすため”だった。 捕まれば酷い罰を受けるのを覚悟で、それにその場所へ行ったとしても、会えるかどうかも分からないというのに。 忘れていなかったのだ、あの子は。 たった一度だけ会っただけの俺の事を。 その健気な心に泣きそうになった。 楼主が、いち男娼を身請けしても良いのだろうか。 あの子は…俺の元へ来る事を拒んだりしないだろうか。 こんな事を思うくらいなら、何故最初からあの子の身請けをしなかったんだろう。 今まで散々大勢の獣人の相手をさせた挙句『お前を愛している』という俺を許してくれるのだろうか。 居ても立っても居られない。 心はもう、瑠夏の元へと行ってしまっている。 全てを捨てたはずの俺が、瑠夏に関しては、その心を捨てきれないでいる。 千尋は『誰の元へ行っても、そのひとへの思いは消えやしません』と言っていたな… 俺も…この心は消えやしない… 幸いにも、瑠夏の身体の傷は大丈夫のようだった。 傷が癒える頃…そっとあの場所へ連れ出してみようか…

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