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約束③

泣き続けて悶々としたまま、4日が過ぎた。 アクトが毎日医者を連れてやって来る。 楼閣専門の医者は、羊の顔をした獣人で名をリールイというが、みんな“リー先生”と呼んでいる。 俺達を 人間のΩ、ただの男娼、だと差別しないこの人もまた優しい人だった。 不運にも、避妊が失敗し妊娠してしまった男娼のケアもリー先生が対応してくれていた。 出来るだけ本人の希望を()んでくれ、中には出産するΩもいた。 リー先生は「経過は良好だ」と俺の頭を撫で、急患で呼ばれ出て行った。 「調子はどうだ? 大きな声では言えないのだが、楼主様が随分とお前の事を気にされている。」 「え…俺、楼主様に嫌われてるのでは…」 「嫌うどころか!! 『いくら罰とはいえ、怪我をさせてしまった。 獣人に対して恐怖感を持たなければ良いのだが…』と。 あの方は、本当は優しい方なのだよ。 俺達にも、他の男娼達にも。 立場上、厳しくあらねばならないからな。」 「…嫌われてたんじゃ…なかったんだ…」 「とにかく。 二度とあんな馬鹿な真似をするんじゃないぞ。 次は命がないかもしれん。 生きていれば…必ず良い事があるから… お前もいろいろ考える事はあるのだろうが、ここに来た以上は覚悟せねば。 良いな?」 「はい。ごめんなさい。」 アクトが出ていった後、思いがけない言葉にため息が出た。 嫌われていなかった。 それだけで、胸の奥が ほおっ と温かくなった。 そっと起き上がり、窓から外を眺める。 遥か遠くに、山際がほんのりと桃色に染まっているのが見えた。 桜…咲いてる…もう散り始めたんだろうな。 獣人様、行けなくてごめんなさい 約束、守れなくてごめんなさい でも、俺、ここで生きていきます。 頬を流れる涙を手の甲で拭うと、もう泣かないと心に誓った。

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