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約束④
イリアスは戸惑っていた。
脱走を試みた男娼を連れて出掛ける?
楼主は何を考えているのだろうか。
また逃げ出したらどうするのか?
その責めは楼主自身が負わねばならなくなるというのに。
「あの…」
「決定事項だ、イリアス。
お前の意見は聞かない。」
「見張りの者を」
「必要ない。俺がいるから不要だ。」
「でも」
「この話は終わりだ。明日極秘で出かける。
後のことは頼んだぞ。」
意見しようにも、会話の途中で全て遮られ、遂には部屋を追い出された。
ため息をついて歩き出すと、思い出したようにアクトの元へ向かった。
「アクト…」
「あぁ、イリアス。お前も苦労が絶えないな…」
「知っていたのか?」
「先程聞いた。仕方ない、楼主の言う通りに。
何か考えがあるのだろう。
瑠夏はここが嫌で逃げたのではないから。
故郷の桜の咲く場所へ行くのが目的だったのだから。
…そんなに心配なら尾行でもするか?」
「いや、楼主にはすぐバレる。」
「それならあの2人を信じて送り出してやろう。
…何か変わるかもしれない。」
「良い方向に?」
「良い方向に。」
「…非常時に備えて番犬だけ準備させてくれ。
それくらいはいいだろ?」
「お好きなように。でも、せめて2人が出掛けてからにしてくれ。」
「承知した。アクト、お前がいてくれて心強いよ。
明日…無事に何事もなく戻ってくるよう祈っててくれ。」
「あぁ。お前もな。」
自室へ戻る足取りは重い。ずしりと疲労感が神経を襲う。
いや、まだ早い。
明日全てが終わるまで、気は抜けない。
高貴な血を受け継ぎながら、元の高位に戻る事を拒否した主。
幼い頃から存在を否定され続けられてきた彼は、誰をも受け入れようとはしない。
それを変えようとしているのは、瑠夏?
さっさと手に入れてしまえばいいのに。
さて、主の留守はしっかりと守らねば。
いつも以上に気合の入る損な性分のイリアスなのであった。
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