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第2話

「美杉(みすぎ)彩我(さいが)です。R大学の電子工学部、四年です。御社のテクノロジーとロボット開発技術に前々から興味を持っていましたので、今回のバイトに応募させていただきました」  数日後、面接に訪れた研究所は高い木々に囲まれた森の中にあった。門をくぐると豊かな自然とは不似合いな近代的な造りの建物が立ち並んでいる。 「なるほど、一人暮らしの大学生ですか」  面接官は電動車椅子に座った爺さんだった。  履歴書を片手に俺を品定めする爺さんはもうとっくに引退してもいいだろうという年齢に思えたけれど、眼光が鋭くて切れ者の雰囲気満々な上に、頭頂部のハゲが天井の蛍光灯に光って眩しい。 「私の開発したアンドロイドは大変優秀な機能を搭載しています。高齢化社会への対応に、介護用アンドロイドとして開発しました。しかし直接人間に触れる力加減、患者の心を読み取る事、これが難しい」  私が開発したと言う事は、この爺さんがアンドロイドを作ったのだろう。それがどれ程大変な研究で、どれだけ頭がいいのかはイマイチ分からないけれど、自分が作ったと言われて素直に納得出来る。そんな爺さんだ。 「実物をお見せしますので着いてきて下さい」  電動車椅子が低いモーター音を立てて動き出したので、俺は慌てて後を追った。  リノリウムの長い廊下をゆっくりと進む電動車椅子に、すれ違う白衣の職員がみんな会釈して行く。 「私はより人に近い介護用アンドロイドを目指しています。そのためにはアンドロイドを人として学習させる必要がある」  なんだかよく分からない。  介護用ロボット開発が進められているのはテレビで見た事が有るけれど、俺が見たのは何の工業ロボットだよってくらい鉄筋むき出しのゴツいやつで、人間に近いとは思えなかった。 「ところで君は機械に心は有ると思いますか」  車椅子に乗った爺さんが、低い位置から俺を見上げている。 「愛情を持って接すれば、輝いて返してくれます。有ると思います」 「それは愛着ということでは有りませんか?この部屋です」  自動で開いたドアの向こう側は壁一面がコンピューターの、これぞ開発室という部屋が広がっていた。 「すげぇ……」  俺は思わず口を開けて部屋の中に見惚れてしまう。同じ学部の奴なんか連れて来たらみんな大騒ぎだろう。 「こちらです、どうぞ」  車椅子を操作して流れるように進んで行く爺さんの後に続くと、ガラスで区切られた隣の部屋に大きなカプセルが見えた。 「あれは?」 「あれが一号です。二号、三号は女性体なので、あなたには男性体の一号をお願いしたい」  やった!  ということは、バイトに受かった。  日給一万円。  内心の大喜びを外に出さないよう必死でこらえて、平静を装いながらガラスの向こう側を覗く。  アンドロイドはどんな姿なのだろう。ワクワクしながら覗き込んだカプセルの中身が見えた瞬間、息をするのを忘れた。  カプセルの中には死体があった。

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