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第4話

 古びたアパートの汚い部屋にアンドロイドを連れ帰ったはいいが、居間のちゃぶ台の前に座る姿は、見れば見る程似合わない。美貌の最先端アンドロイドにはルンバが飛び交うフローリングが似合いそう。  俺は台所でお茶を入れながら、それにしても綺麗な奴だなとこっそり観察する。パーツパーツが細くしなやかで、外人女性モデルみたいだ。アンドロイドをこんな並外れた美人に作ったら、目立って仕方ないだろうに。 「えーと……」  そばに行くのも躊躇われるけれど、気後ればかりもしていられない。お茶を理由に近付いた俺に、アンドロイドらしく機械的な動きで小さな頭がくりんとこちらを向いた。 「飲んだり食ったり出来るのかよ?」 「必要、ありませんが、少量なら、できます」  喋り方はたどたどしい。これは学習機能が働いてすぐにスムーズになると爺さんが言っていた。なんでもスポンジが水を吸収するように学習するらしい。 「食ったらどこに溜まるの?」 「お腹」  子供のような仕草で自分のお腹を押さえてる。あら可愛い。 「それ、どうなるの?」 「袋、取る、バイオ肥料」  分からん。粉砕して胃袋に溜めてバイオ肥料にするという事だろうか。 「名前どうしようか」 「僕の、名前は、ラブドールタイプアンドロイド一号、です」 「それは名前じゃなくて製造ナンバ……はっ?」  今こいつ何て言った?  俺は穴が開くほどアンドロイドを見つめてしまった。するとキョトンとした表情の二人が見つめ合う事になって、アンドロイドは俺に似せて表情を微調整した。  今この瞬間にリアルな驚き顔を学習したのを見た。凄い。いや、驚く所はそこじゃない。 「もう一回言ってみて」 「ラブドールタイプアンドロイド一号、です」  ラブドールと言えば、俗に言うシリコン製のアレじゃないか。寂しい男の恋人。一人で頑張る時用の抱き人形。  片手で口元を押さえてさらなる驚き顔をしている俺に、アンドロイドは、どうしたの?とでも言うように可愛いらしく首をかしげている。  基礎知識のデータしか無いせいか、幼気さすら漂う雰囲気はなんて可憐なんだろう。そんなのがエロ人形とか、どうなってるんだ。  待てよ、そういえば爺さんが、こいつは特注品でオーダー機能が付いてるとか言って無かったか?話を全く聞いていなかったけど、言っていた気がする。それでもって、その機能も追い追い実体験させろ的な意味の事も言ってた気がする。特注機能とはきっとアレだろう、セクサロイドって事だろう。  って事は俺がやるのか!俺がこの綺麗なだけの中身お子様に……。  鼻血出そう。 「お前を注文したのって、誰?」 「それは、知りません。僕はラブドールタイプアンドロイド一号、です。マスターは、あなた、です」  きっと金持ちの暇を持て余したばばぁの道楽だ。若くて綺麗なのにいたずらしながら介護もさせる。 「もういいから、お前の名前はイチだ。誰かに名前を聞かれたらイチって名乗れ、いいな」 「イチ。了解しました……ちっ、だせー名前」  えっ?  今コイツ何か言わなかったか? 「マスターの、言葉使いの、パターンを学習して、います」 「なんだって?」 「マスターの言葉使いの、パターンを学習してんだよ」  急に口が悪くなった。憎たらしい。  つまり、まっさらなイチは何でも学習して吸収する。そういや爺さんが優しい子にしてくれって言っていたっけ。  機械に心は有ると思うかと言う質問に、俺はイエスと答えた。この時点でバイトは不採用が適切だったんじゃ無いだろうか。優しい子にしてという注文には全力で応えたいけれど、性的虐待のような仕事内容はどうしよう。その二つは逆方向だと思う。

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