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第8話

 大学で誰かに相談してみようかと友人達の顔を思い浮かべても、育児なんて物には不向きな奴らばっかりで心当たりが無い。困った、俺たちはまだ大学生で相談の出来る奴が居ない。  だけど、あれ、待てよ。 「斎藤、ちょっといい?」  教室で雑誌片手に焼きそばパンを頬張っている熊みたいなデカイ男。モサイ外見といい男臭い雰囲気といい、あだ名はクマさんの斎藤、こいつが居た。 「斎藤ってさ、年の離れた弟か妹居る?」 「いやぁ、俺は一人っ子」 「なんだ、育児が得意かと勝手に思ってた」  隣の椅子に座って机に頬杖を付いた俺に、どんなイメージだよと斎藤が聞いて来るけど、子育て中の熊とは言えない。 「うーん……斎藤なら優しいから人間の人格形成に必要な事が分かるかと思って」 「彩我は重要な事を忘れている。俺たちの学部にそんな試験は無い」  そうだった。機械弄りに育児は必要無いのに、おかしいな。俺、子育てしてる。 「自分の親思い出してみたらいいんじゃね?いいアドバイス出来なくて申し訳無いけど、親のおかげで今の彩我が居るのは間違いないだろ」 「さすが斎藤、いい事言うね」  俺の父親は漁師をしている海の男で、家にはあんまり居なかった。母親は幼稚園の先生をしていていつも優しい笑顔だった覚えが有る。  記憶のシーンは西陽が射す畳の部屋だ。洗濯物を畳みながら学校であった事を聞いてくれて。それから……。  それから、他にはなんだったっけな。  俺は机に頬杖を付いたままの姿勢で記憶を探る。  沢山の思い出が有るはずなのに、思い出そうとするとシーンは映画のようにコマ切れでよく思い出せない。幼い頃の事などそんな物で、何かしらのきっかけが無いと思い出せないのかも知れない……。

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