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第21話

 女優を真似て、イチが俺のペニスを口に含む。横目で画面を見ながら、同じ動きをする。そして時々俺を上目に見上げて微笑む。  ヤバイ。  視覚で煽る映像の動きを、女優よりよっぽど美人なイチにされたらたまらない。しかも女優に対抗意識を燃やしているようで、やる気に満ちている。  女優がペニスを口から出して舌で舐めるのを見せつけると、イチは全く同じ事をする。赤い舌を沿わせて下から上まで舐め上げて、俺に見せ付けて来る。 「いいよ、上手い」  囁いて髪を撫でれば、舐めながら嬉しそうに笑って無茶苦茶可愛い。動画の流れを無視して今すぐ押し倒したくなる。 「彩我が、気持ちいいと、僕も嬉しい」  咥えてモゴモゴ言うから、赤い唇から飛び出した唾液に濡れた物がイチの白い頬を打った。びっくりしたのか瞬きを繰り返しながら俺のペニスを見て、また笑ってる。  何その破壊力。結局惚れてるのは俺の方って事だ。  やっと射精シーンになった時は、心底ホッとした。男優はもちろん口内射精だったので同じにしたら、びっくりしたイチが避けて半分顔射になってしまって、慌ててそばにあったティッシュを引き抜いたイチの手を俺は掴んだ。 「ごめん……洗って来いよ。そこまで気を使わなくていいから」 「気を使う?」  汚された感覚が無いらしい。  俺は洗面所からタオルを絞って来て、イチの顔に押し当てる。 「彩我、乱暴」 「文句言うなよ、死ぬ程可愛いお前が悪い」 「えっ」 「上手だったよ」 「本当に?」  照れているイチの髪に唇を寄せて、すっぽり抱きしめた。  イチは可愛い。俺の宝だ。だから絶対に誰にも壊させないし、俺が死んだ後も未来永劫幸せで居続けて欲しい。  こっちがタオルで清めている間に、停止しておかなかった映像は女優が攻められて大げさに喘いでいるシーンが流れていた。 「彩我、アレやる?」 「あれはいいよ。ちょっと大げさ過ぎて実際やったら引くかな」 「じゃあどういうのがいいの?」  俺なら素のままがいい。だけど次の持ち主がそう思うとも限らない。  そこで動画を可も無く不可も無くでリアルっぽく喘ぐ女優の物に切り替えて、今度はテレビに向かって座り、脱がせたイチを後ろから抱え込む。服さえ着ていれば仲良くビデオ鑑賞なのに、揃って全裸で流れてるのがAV。  やっぱり真剣に画面を見るイチの乳首を、俺はつまむ。 「あ、ちょっと……そこスイッチ有るからやめて」 「なんでやめるの?」 「だって勉強中」  やる気になってる。さっき上手だと褒めたのが効いたのか、こんな時まで素直だ。 「実習」  指先でつまんだ小さな乳首はすぐに尖って来て、イチはささやかに吐息を漏らす。 「ん……」 「どんな感じ?」 「スイッチがチカチカする」  チカチカ?触る度に電源が入って切れて入って切れて、という事だろうか。それじゃあ実の所、快感かどうかも分からないただの点滅だ。  イチは形のいい眉を寄せて、苦しそうとも取れる表情を浮かべていた。ただ女優を真似する息の吐き方が官能的。 「気持ち、いい……」  本当にそうだろうか。様子を伺いながら両方の乳首をしつこくクニクニしていると、イチは唇を噛んで胸を反らせた。 「あぁ……これが気持ちいいって、彩我が教えてくれた」  そうか。  気持ちいい事だと教えたから、気持ちいい。もし苦しいとか痛いと教えていたら、そう覚えてしまったのかも知れない。機械には反応するための圧点はあっても快感は無くて、全部相手を喜ばせるための物。  そうだよと、俺はイチの耳元に囁いて教え込む。 「それが気持ちいいだ。お前はそのチカチカを感じると嬉しくて、幸せになる」  でも、してくれる相手を大好きになるとは教えない。言ってやった方がイチは幸せになれるのに、分かっていて言わない俺はどこまで勝手なんだろう。 「それを感じると幸せで嬉しくなる。だから気持ちいい」  そうやって俺はラブドールを作る。  誰に何をされても幸せと喜ぶ抱き人形を。  挿入の時はまた女優を変えた。やってる事は同じで女優の喘ぎ方も大差無いけれど、なるべく雰囲気の有る物がいい。じゃないと挿入するだけの物のように扱われてしまうかも知れない。 「ぅんっ……ああっ」  奥を突くと腰をくねらせながら、細い指先が俺の頬から首筋、肩へと辿って落ちる。  画面の女性を真似て喘ぐイチはもう素のイチでは無いけれど、ガキっぽくいっぱいいっぱいになるよりはこっちの方が好まれるだろう。 「……好きだよ」  正常位で抱きしめて、俺は男優とは違うセリフを言う。 「ん……好き。彩我大好き……」  しどけなく返して来るのは本心だろうか。演技の入った姿に分からない。  このために作られた機能は的確で、イチの薄い腹筋を小刻みに震わせながら中をオイルで濡らす。適度な締め付けとグチャグチャに濡れた内部は抵抗無く受け入れて、細い背中を仰け反らさる。 「はぁ……はぁっ……んんっ……」  擬似呼吸の吐息も、下から俺を流し見る視線も色っぽくてゾクゾクする。この美しい人を自分の物にして絶頂を迎えさせたいと、征服欲を煽る。 「イチが、とても好きだよ」  もう嘘ばかりの俺だけれど、これだけは嘘じゃ無い。  いつ巣立ってもいいように幾つもの映像を見せて、幾つものパターンを練習させて、俺では無い誰かのために。他の誰かに愛して貰えるように。  こうして俺は、ラブドールを作り上げた。  セックスを覚えたイチが纏う雰囲気は妖艶で、いつか買ってやった爽やか系の白いシャツすら、イチが着るとその下の裸体を想像する程に色っぽくそそった。

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