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ダンスホールの主役?

レオに無理矢理連れていかれたダンスホールでは今、ワルツが流れている。 クロエはギクシャクしながらも何とかレオについて行く。 コケそうになったら、受け止めてもらい、足を踏んでも踊ってくれる。 完全にフォローされているけど、初めてダンスが少し楽しいかもしれないと思った。 (そういえば、ジャンも足を踏んでも、俺が転びそうになってもちゃんと練習には付き合ってくれるんだよな) 普通だったら、下手な人の相手は嫌だろうにどうして付き合ってくれるんだろうと思っていた。 (ジャンは俺のお父さんだから、踏んでも転んでも付き合ってくれるのかな) ジャンがレコードに針を落とす仕草や、踊る時の優美な立ち振る舞いを思い出す。 獣人にしては細身のしなやかな体。 筋肉質だし、顔もチーターだからかかっこいい顔をしてると思う。 面と向かって言わないけど、尊敬もしている。 (でも、ヴィーナスになったら、ジャンと俺はいつか離れ離れになる。いつか、どこかの貴族に嫁いで……) ジャンの望む者に近づけば近づくほど、ジャンと離れ離れになることに寂しさを感じる。 (俺、ジャンと一緒にいたい……こんなに思ってても、息子にしか思われてないのかな) ぼんやりとそんなことを考えていると、レオが耳元で、「おい、ぼんやりするな」と注意してきた。 「足元がおぼつかなくなってるぞ。シャキッとしろ」 「ご、ごめん……。何度も足も踏んでるし……」 「お前の足なんか痛くねぇよ。ほら、猫背になるな。堂々としてろ」 「うん……」 ふと周りを見ると、今まで踊っていたはずの貴族達が観客側にまわり、クロエたちを見ていたことに気づく。 周りをキョロキョロ見ると、いつの間にかクロエとレオだけでダンスホールを独り占めしてしまっている。 「あの、レオ……もうそろそろダンスやめようか?なんか、すごく目立ってるし……」 「馬鹿。今更やめられるか。音楽は続いてるんだぞ」 ダンスをし続けていると、貴族達の囁きが耳に入ってきた。 「珍しい……レオナルド様だ」 「レオ様と踊れるなんて、なんて羨ましい」 「相手の方は誰だ?」 「あの方は、ほら……ディートリヒ伯爵の……」 「まさか、ヴィーナス候補の……?」 クロエは恥ずかしくて死にそうになった。 ヴィーナス候補がこんな器量の悪い奴だなんて思われたら、ジャンの面目も丸つぶれだ。 「ソニア様とは違うタイプだな」 「レオ様はああいうのがタイプなのか……?」 不釣り合いだと言わんばかりの口調に怒りも感じながら、目を伏せる。 あぁ、早く終わってほしい。 「おい、顔上げろ」 「レオ……ごめん……俺のせいで、レオまで悪口言われてる」 「聞こえねぇな。それにお前、自分で言うほど、悪い顔してねぇよ」 レオが少し笑うと、クロエを急に抱き上げる。 「ふあ!?ちょ、レオ!!」 「もう飽きたから、逃げるぞ」 レオはクロエを抱きながら、ダンスホールを抜け出した。 ダンスホールを抜け、庭園の東屋まで走ると、クロエを下ろした。 「きゅ、急に抱き上げるな!びっくりしただろ!?」 「お前が情けねぇ顔してるからだろ。それに、もう十分踊った。靴も凹んできたしな」 「う、それに関してはごめん……」 「罰として、俺の枕になれよ」 「は?枕って何?」 レオはドスンと隣に座るとクロエの膝に頭を乗せた。 しばらくすると、レオは寝息を立て始めた。 「枕ってこういうこと?」 クロエは溜息をつきながら、ぐっすり眠るレオの鬣をそっと撫でる。 月明かりに照らされた真っ白な鬣はキラキラと輝き、星が瞬いているようだ。 「綺麗だな……」 暖かいぬくもりに思わず眠気に襲われる。 ちょっと寝てもいいかな……と目をつぶり、温かなライオンの上でぐっすりと眠ってしまった。 夜も深まった頃、レオは目を覚ました。 体を起こすとぐっすりと眠っているクロエがいた。 アルファの前でこんなに無防備に寝るなんて……とクロエの無防備さに思わずため息をつく。 クロエの頬を撫でると、擽ったそうに身をよじった。 「世話のやける奴……目が離せないな」 そろそろパーティーも終わる頃だろう。 レオはクロエを抱え、屋敷の中に入った。

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