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発情期

―――― 俺が発情期を迎えたのは去年。 十五歳の時だ。 オメガの発情期は三ヶ月に一度。個人差はあるけど、だいたいこういう周期で回ってくる。 発情期の始まりも十二、三歳で、俺は少し遅い方だった。 同じヴィーナスとして育てられているソニアは十三歳で発情期がきたため、まだ発情期がきていない頃、話を聞いてみた。 「ソニア、俺、まだアレがきてないんだ」 「アレ?」 「その……発情期ってやつ……」 当時、十三歳くらいの時にジャンからオメガの体についての本を渡された。 『お前もそろそろ発情期がくるかもしれないから読んでおきなさい』と言って渡されたものだ。 「クロエはまだきてないんだね。大丈夫だよ、こういう体のことって人それぞれだから、遅い人もいるらしいし」 「発情期ってどんな感じ?大変?」 「確かに、体は辛いかな。ずっと体が熱くて、頭がボーッとする感じ……でも、ずーっと辛いわけじゃなくて、楽になる時と辛い時が交互に来る感じかなぁ」 ソニアは言葉を選びながら、発情期がどういうものかを教えてくれた。 やっぱり辛いんだ……。でも、こなかったらこなかったでオメガとして成熟しないまま。 「怖くなかった?」 「自分の体じゃないみたいで、少し怖かったけど……でも、お父様がずっと隣にいてくれたから、すごく安心したんだ」 ソニアの育ての父であるソロニア卿の顔を思い浮かべる。 正直、怖い印象しかないけど、もしかしたら、ソニアにはめちゃくちゃ甘いのかな? 「お父様がいてくれたから、初めての発情期でも怖くなかったよ」 「……ジャンも、隣にいてくれるかな?」 「絶対いてくれるよ!ディートリヒ伯爵、クロエのこと、すごく大事にしてくれてるもん」 大事にか……。 ジャンは俺が苦しんでいる時、傍にいてくれるかな。 そして、十五歳の誕生日を迎えた夏の朝、ついにその時はやってきた。 寝苦しくて開けた窓からは、朝の少し冷たい風が入ってくる。 熱を持った体が撫でられるようで、気持ちいい。 苦しくてもがいた為か、シーツにはシワがより、ネグリジェもほとんどはだけてしまった。 (寝汚いって、ジャンに怒られるな) いつも身なりを整え、整理整頓が趣味みたいなジャンが眉間に皺を寄せて叱ってくるのが目に見える。 いつまで経っても起きてこない俺を起こしに来たマールはその様子を見て、大きな尻尾を揺らしながら、慌ててジャンを呼びに行ってくれた。 「クロエ……ついに発情期がきたんだな」 「ジャン……」 汗をかく俺の額をジャンは手で拭う。 ジャンは何も言わずに、ネグリジェを脱がせようとする。 「あ……ジャン……っ、何するの……?」 「体を拭くだけだ」 持ってきたのであろうタオルで肌の上で粒になった汗を優しく拭き取る。 触れられるだけでも敏感に反応してしまう体。タオルの生地でさえもぴくりと反応してしまう。 もっと、ちゃんと触ってほしい……。 優しいタオルの生地と、ジャンのツヤツヤした毛並みがもどかしくてたまらない。 俺は堪らず、ジャンの手首を握った。 「ジャン……もっと、触って……」 「クロエ……」 「お願い……っ、ここが治まらない……自分でしても、治まらないんだ……」 熱くなった陰茎はジャンに触れる度にジンジンしてしまう。 ジャンは俺の手を離すと、扉の方へ向かっていく。 治まらない劣情を放置したまま見捨てられるのかと不安に思っていると、ジャンはカチリと鍵を閉めた。 「ジャン……?」 そのまま開け放たれた窓を閉め、カーテンを勢いよく閉めた。 「クロエ、首輪をつけるぞ」 相手がオメガの首を噛まないように保護するための首輪。 首を噛むと(つがい)になり、その人しか関係を持つことが出来ない。 望まない番を作らないように自衛のためにオメガがつけるものだ。 「首輪……なんで……っあ!」 さっと首輪をつけると、ジャンは俺の後ろに回り、ピッタリと俺の体に密着する。 服を通してもジャンの筋肉質な硬い体が分かる。 「私も獣人だからな。うっかり噛むといけないだろう」 背中をジャンの胸に預けているような形になり、胸の突起を指で転がし始めた。 「ひぁ……っ!あ、やだ……乳首触らないで……っ」 触ってほしいのはそこじゃなくて、もっと下の方なのに。 焦れったくて、下着を脱いだ。 主張するように勃ち上がったソレは、先から露が出始めている。 「ここ……触って……、ジャン」 「はしたない奴だ」 そう言いながら、大きなジャンの手は俺自身を握り込み、上下に擦り始めた。 人間の手と同じだけど、金色のチーターの毛がなんとも言えない快感に変わる。 「ん……っあ、ひぁ……!ジャン……、気持ちい……」 「お前が喘ぐ度に、匂いが濃くなっている。オメガのフェロモンだ」 「フェロモン……っ、あぁ……!」 弱く、強く、強弱をつけながら擦られるジャンの手は慣れたように、俺を快感の淵に追いやっていく。 他のオメガを育てた時もこんな感じだったの? 「オメガのフェロモンを感じながら、アルファは子を成すために興奮状態に陥り、体を繋げる」 ジャンはまるで教科書でも読むように、淡々と発情期について話している。 あぁ……そうだ、前に渡された発情期に関しての文章を暗唱しているんだ。 「ジャン……、もっと触って……!」 「発情状態のオメガは己の性欲が満たされるまで、発情は治まらない」 ジャンはぐっと力を入れて擦り上げた。 何かが昇ってきて、急に弾ける。 俺の先からは勢いよく白濁した精液が吹き出し、絶頂した。 ぐったりとジャンの体にもたれ掛かると、ジャンは体を離し、俺をベッドに寝かせた。 手早く汗を拭き、新しいネグリジェに着替えさせると、タオルと脱ぎ捨てた俺の服と下着を持っていく。 「発情期は一週間程度続く。後半になると薬で抑えられるくらいにはなるだろうが、始めの二、三日はこういう状態が続くと思いなさい。それまでは自分で慰めて、抑えるしかない。……どうしても、無理な時だけ私を呼ぶように」 ジャンの声が遠くに聞こえる。 どうして、そんなに冷静なの? 今まで育ててきた子もこうだった? 「今のお前は無条件にアルファを誘う。首輪は念の為に外さず、屋敷外から出ないように」 それだけ告げると、バタンとドアを閉めた。 俺は涙が出てきた。 ジャンは全く俺のフェロモンに反応していなかった。 ジャンにとって俺は、本当に息子でしかないんだ。 発情期が来たら、きっとジャンも少しは俺をオメガとして意識してくれるんじゃないかと思っていたのに、全然その気配すらなく、むしろいつもより淡々としていた。 それが、とても悲しかった。

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