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プロポーズ
ジャンはクロエを追い払うように接していると、ヘルマンはため息をついた。
「そんなに邪険にすることないんじゃない?」
「ダメだ。これからヴィーナスとして立派にやっていかなきゃいけないんだ。お前はクロエを甘やかしすぎている」
「だって同じオメガだし、クロエは可愛いんだよ~。ヘルマンヘルマンって寄ってきてくれて……僕は純粋な友達少ないしさぁ」
それはそうだろうとジャンは思った。
ヘルマン=トールという男は、貴族の中の情報屋、国王陛下の番犬だ。
情報を得るためなら手段を選ばない。
「それに僕は今、ストレスに押しつぶされそうなのさ。国王陛下は病だなんて言ってるけど、本当はそうじゃない。今までの王子の怪我や誤薬だって、たまたまじゃない」
「やはり、そうなのか……」
「陛下は暗殺されかけた。毎日毎日毒を少しずつ盛られていた。調べた限りでは、東洋の毒らしい。おかげで一時的に視力が落ちてしまったけど、今は少しずつ回復してきている」
少しずつ毒を……。真綿で首を絞められているような感覚だ。
「この前、毒を入れていたと思われる料理人が一人死んだ。休暇を言われて、隣国にいた時に死んだ……いや、殺された。実行犯は料理人なんだろうが、首謀者は違う」
「身内の犯行だと言いたいんだろ」
誰が聞いているか分からない。
しかし、ヘルマンが言いたいのはそういうことだ。
「オブラートに包んでたのに、君は大胆だな。まぁ、そうなんだけど……さらに大胆に言うと、王子達が怪しいって話。今この場にいる、白いライオンさんと黒いライオンさんだね」
第二王子のリオン様と第五王子のレオナルド様。
おそらく、王位継承権が絡んでいるのだろうと察していた。そうでなければ、馬の扱いに慣れた第一王子のアーノルド様が落馬などありえないし、昔から飲み続けている薬を第四王子のメロウ様が誤って全く違う薬を飲んでしまうなんてこと有り得ない。
「レオナルド様と言えば、この前のパーティーでクロエと踊ったらしいじゃないか。……それ以来、レオナルド様はお見合いを全て断っているらしいよ。もしかして、クロエのことが好きになっちゃったのかなぁ」
ジャンはドキリとした。
王子に見初められるなんて、またとない事だろう。
ヴィーナスを育ててきた者にとって、こんな光栄なことは無い。
なのに、どうして自分の心が痛むのか。
目をそらし続けていた壁がジャンの目の前に立ち塞がる。
「……ジャンはもっと素直になるべきだよ。君の心は僕と違って真っ直ぐだ。真っ直ぐな君のこと、クロエは好きだと思うよ」
「お前に諭される時が来るとはな。……少し、クロエの様子を見てくる」
「お父さんは大変だねぇ」
「クロエはすぐにサボろうとするからな。見に行くだけだ」
ジャンは強がりを言いながら、ホールにいる人達の間を抜けていった。
「……迷った」
クロエはシンとした大きな廊下でキョロキョロしながら、迷っていた。
来賓室から慌てて出てきたから、どっちが元いた場所だったか分からなくなってしまった。
どこも似たような像があって、方向感覚がおかしくなる。
十分前、片膝をついたレオからプロポーズをされた。
「クロエ、お前のことがあの時から忘れられなかった。お前となら、これからの人生、共に過ごせると思ったんだ」
「あ、でも、俺……器量も良くないし、ヴィーナスに選ばれるかどうかも分からない」
「そんなこと別にどうでもいい。ヴィーナスになってもならなくても、俺はお前が好きだ。お前がいい」
あまりに真剣なレオの顔に目をそらすことが出来ずにいると、ふと頭の中にジャンの顔が出てきた。
ジャンにプロポーズのことを言ったら、喜んでくれるだろうか。
「すぐに返事はしなくていい。しっかり考えて答えを出してほしい。……それに今、俺の家は不安定な時期だから、落ち着いてからの方がいいかもしれないしな」
「分かった……考える」
その返事を聞くと、レオは少し安心したように笑った。
来賓室から出ると、レオは他の貴族に挨拶をしに行くと別れた。
緊張したせいか急にトイレに行きたくなり、召使いの人に聞いてトイレに行ったがいいが、帰り道が分からなくなってしまった。
「どうしよ……誰か人いないかな」
キョロキョロとしていると、どこからか声が聞こえてきた。
食料庫なのだろうか、別の豪華な部屋とはちょっと雰囲気が違う。
そっと覗いてみると、真っ黒なライオンと馬の獣人がコソコソと話をしていた。
「レオは手強いからな。晩餐会が終わったら、部屋で殺せ。私は国王陛下の部屋に行っている間にやるんだぞ」
レオを殺す?
どういうことだ。
不穏な空気に血の気が引く。
それにあの黒いライオンは第二王子のリオン様だ。
何故、弟であるレオを殺すのだろう。
早く誰かに伝えないと……!
そう思い、引き返そうとした時、つい物音を立ててしまった。
しまったと思った時には、時すでに遅く、クロエはあっという間に食料庫に引きずり込まれてしまった。
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