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第54話
「いたたたたた! 何するんだハニー!」
「何するじゃねぇっつうの! なんで昔の男の話してんだよこんな格好して!」
「えっ?」
「えじゃねぇ! 俺の前でわざわざ昔の話すんなっ!」
「いたたっ! すまん、謝るからやめてくれ!」
ものすごく力一杯っていうわけではないけど、そこそこ力を入れてつねってやる。パッと離すと、少し赤くなってしまっていた。
「くぅ……すまなかった、言う必要のないことだった」
「本当だよ! ったく」
少し落ち着いたけど、怒ってますアピールしながら。
「すまない。けど、思ったことは本当さ。本当に愛しているから、言葉で惑わす必要がないと思っている」
赤いほっぺたもそのままに、子犬みたいにちょっと怯えながら言う。
「やっぱり、俺の意識だけじゃなくて、無意識の部分でもお前を愛しているということなんだと思う」
俺の汗ばんだ背中をそっと撫でて、それから軽くポンポンと叩いた。
「愛している。安っぽく聞こえるかもしれないが」
「……」
もちろんそんなことわかってたし。
別に喧嘩したかったわけでもないから、この辺で手を打つのが一番いい。
俺は彼と関わるようになってから、ちゃんと感情を表に出せるようになったと思う。
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