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第55話
「ごめん、俺も悪かった」
申し訳なさそうにしている彼を見ていたら、怒ってしまったことすら申し訳なく思えてきた。そんな風に思える自分は、彼と出会う前には存在しなかったような気がする。
「ハニーは悪くないさ、俺が雑だったのが悪かったんだ」
「ううん。俺もカッとなってごめん」
せめて仲直りは俺からしたくて、さっきまでつねっていたほっぺたを優しく撫でた。
そのまま包み込んで、なるべく優しくキスをする。
「俺だって、お前の過去のことを知りたいわけじゃないのに。すまなかったなハニー」
彼の場合は特に、知らなくてもいい俺のトラウマを知ってしまったから余計に知りたくないのかもしれない。
「じゃあ、もうお互いそういうのはナシってことで。な?」
「あぁ、俺たちに必要なのは過去じゃなくて未来だからな」
そう、俺たちに必要なのはこれから。それだけだ。
半裸状態だったのをふと思い出して、しかもドアが開いていることも思い出して、急に恥ずかしくなった。
「なぁ、シャワー浴びないか? このままっつうのもアレだし」
無理やり立ち上がって一息吐いたところに、追いかけるように彼が立ち上がる。
「すごそうな風呂だったな」
笑いながら、一緒にそのまま風呂場に向かった。
あまりにも安心しきっていた俺は、うっすら開いたドア越しにその様子を伺う人影があったことに、これっぽっちも気づかなかった。
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