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第61話
「ドラァグクイーン?」
何それ、と聞こうとして思い出す、そういうパフォーマンスをする人のことだってこと。俺も多少そういうこと勉強してんだよ。
「もとがいいからな、かなり美人のクイーンだったぞ。旦那と出会ってからやめたんだ」
やめたというか引退というか、と言葉を濁した。どっちでもいいけど、いろいろあったんだろう。
「まぁ、幸せそうだし、別にいいんじゃん」
ウェディングドレスはそういうパフォーマンスとはまた違うものだし、記念てことかもしれないしな。
何となく微笑んでいるのを自覚しながら、階段を下る背中を目で追う。その途中で、ふと誰かと目があった気がした。
(ん?)
なんとなく違和感があったのは、それがまっすぐに俺の方に向けられていたからだった。
軽くキョロキョロする。この祝福の優しい雰囲気の中で、明らかに異質な気配を感じる。
(なんだ……?)
彼は気づいていない。1人でキョロキョロして、その気配を追う。幸せ一色の風景の中、俺だけが不思議そうな顔をしている感じ。
けれど、幸せ一色の景色の中、明らかに異質だったのは俺じゃなかったってことに、すぐに気がついた。
「っ」
目があった。
ここに来た日出会った、キラキラな王子様と。
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