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第63話
「っ、どうしたハニー?」
目を丸くしている。そりゃそうか、急に引っ張られたんだからな。
「や、あの」
ここでやっと王子様から目をそらすことができた。見慣れた彼の顔を見てホッとする。
「どうした、体調が悪いのか?」
少しうろたえた顔にすら心地よさを感じるほど。
「ううん、や、なんでもない」
けれど、恥ずかしさもあってすぐに目線を落とした。
「ん? さては、羨ましくなったのか?」
「はっ?」
「挙式をしたくなったのか?」
ニヤニヤ笑っている。さすがにちょっとムキになっちゃう。
「だからぁ、違うって!」
「そうじゃなかったら何なんだ?」
ゆっくりと顔を寄せて静かに唇を重ねてくる。周りの目が気になったけど、周囲は式に夢中で俺たちのことなんか目もくれない。
それを知ってか知らずか、軽いキスを何度もしてくるから、さすがに困惑してしまった。
「ちょ、人前で……っ」
「あぁすまない、雰囲気につられてな」
「シェフが主役なんだからやめろって」
「それならあとでたっぷりキスをさせてくれ、2人きりになったらな」
目を細めてすっかり鼻の下を伸ばしてるから仕方がない。ちょっと呆れる。
気になってふと王子様の方を見たけど、すでにそこに彼はいなくなっていた。
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