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第64話

(なんだったんだ……) ちょっとした不思議体験ぐらいに捉えて、再び彼に寄り添って式を見届けた。 式が終わってからもあの視線に再びかち合うこともなく、気づけばその視線のことすら忘れてていたほどだった。 「いい式だったな」 どちらかといえば、式の様子で胸がいっぱいだった。 「ああ、本当だな。素晴らしい演出だった」 ウェディングドレスで外にある簡易的なチャペルで再度のキス、鳩や風船を飛ばしたりゴスペル生演奏と生歌を聞いたりと、可愛い演出があふれていた。 「式自体は結構オーソドックスだと思うけどな~。ものっすごい奇抜な演出すると思ってた、新郎が空から降ってくるとか」 「オーソドックスなのがいいじゃないか、こんな歴史ある城で、奇抜な発想は不要さ」 式の後に行われた立食パーティーでは、本職のシェフ本人が直接腕を振るっていて、そこでようやくシェフと話ができた。話をするのは、別荘以来だ。 「おめでとうシェフ」 別荘で見た長いコック帽を身につけたシェフが、声をかけた俺と彼を見て殊更可愛く微笑む。 「あらっ、2人とも! 来てくれて嬉しいわ、本当に遠いところありがとう!」 「主役が働いてどうすんだよ」 「いいのよ、アタシがやらしてって言ったの、料理は他に任せておけないわ!」 変なところが男らしい。

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