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第68話

「わかんない」 それ以外うまく感情を表す言葉が思い浮かばなくて、腕で顔を隠すみたいにしながら言った。 心臓のあたりにぽかっと穴が開いたみたいに、スウスウする感じがする。無理に隠そうとしても、もう彼にはお見通しで、上手に隠すことすら出来ない。 昔はこんなやつじゃなかったのにな。他人事みたいに自分を思う。彼に出会う前は、1人の方が好きだったはずなのに。 「いっつもずっとべったり一緒ってわけじゃないのに、なんかわかんないけど、ちょっとうまく言えない」 家にいたら、普通に1人でジムに行ったり買い物行ったり、彼だって1人で宝石いじったり仕事したりしてるのに、何故か今は、1人にされることがすごく寂しくてショックが大きい。 かといって「1人にしないで」なんて少女漫画のセリフでもあるまいし、言えるわけないし。 「ハニー……」 彼は目を細めて、俺に起き上がるように促した。改めて向かい合うと、彼はじっと俺の顔を見て、胸に収めるみたいにゆっくり抱きしめてきた。 「寂しい思いをさせてすまない。ほんの少しだけだ。すぐに迎えに行く」 ぽんぽんと頭を軽く叩くみたいに撫でられると安心する。 少しくらいなら、甘えてもいいかな。 「……何時間くらい?」 彼の肩に無理やり顎を乗せながら尋ねた。

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