68 / 180
第68話
「わかんない」
それ以外うまく感情を表す言葉が思い浮かばなくて、腕で顔を隠すみたいにしながら言った。
心臓のあたりにぽかっと穴が開いたみたいに、スウスウする感じがする。無理に隠そうとしても、もう彼にはお見通しで、上手に隠すことすら出来ない。
昔はこんなやつじゃなかったのにな。他人事みたいに自分を思う。彼に出会う前は、1人の方が好きだったはずなのに。
「いっつもずっとべったり一緒ってわけじゃないのに、なんかわかんないけど、ちょっとうまく言えない」
家にいたら、普通に1人でジムに行ったり買い物行ったり、彼だって1人で宝石いじったり仕事したりしてるのに、何故か今は、1人にされることがすごく寂しくてショックが大きい。
かといって「1人にしないで」なんて少女漫画のセリフでもあるまいし、言えるわけないし。
「ハニー……」
彼は目を細めて、俺に起き上がるように促した。改めて向かい合うと、彼はじっと俺の顔を見て、胸に収めるみたいにゆっくり抱きしめてきた。
「寂しい思いをさせてすまない。ほんの少しだけだ。すぐに迎えに行く」
ぽんぽんと頭を軽く叩くみたいに撫でられると安心する。
少しくらいなら、甘えてもいいかな。
「……何時間くらい?」
彼の肩に無理やり顎を乗せながら尋ねた。
ともだちにシェアしよう!