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第69話
「話をするだけさ。半日もかからないだろう」
「半日かぁ」
「長いか?」
「ううん。大丈夫」
我ながら、べったりと彼に抱きついて呟く。
「すまないハニー、お前と離れたくてこんなことを言ってるんじゃないんだ。むしろ離れたくない。わかるだろう?」
彼の手が優しく背中を撫でる。
「お前がこんなにいじらしく俺にすがってくれているのに、応えてやれない俺を許してくれ」
俺も俺で、たったそのくらいの時間なのに、何を戸惑っていることやら。急に離れる宣言されたからって戸惑いすぎだろう。
少しずつ落ち着いて、悲しい気持ちになったことすら恥ずかしく思えてきて、ゆっくり体を離した。
「わかってるって。ワガママ言ってごめん」
「まだお前に紹介していない奴だから、あとで改めて紹介する。だから、少しだけ俺に時間をくれ」
「うん、わかった、ごめん」
目が合うと、すぐに唇を重ねられた。
「そのかわり、ハニーの気持ちは、今晩きちんと受け止める」
俺の左手を掬うように取り、親指と人差し指で指輪に触れられる。
「離れている間も思い出させてやろう、俺の感触、体温、全てを」
指輪に触れられると、自分が彼の何なのかを改めて自覚させられる気がしてくる。
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