69 / 180

第69話

「話をするだけさ。半日もかからないだろう」 「半日かぁ」 「長いか?」 「ううん。大丈夫」 我ながら、べったりと彼に抱きついて呟く。 「すまないハニー、お前と離れたくてこんなことを言ってるんじゃないんだ。むしろ離れたくない。わかるだろう?」 彼の手が優しく背中を撫でる。 「お前がこんなにいじらしく俺にすがってくれているのに、応えてやれない俺を許してくれ」 俺も俺で、たったそのくらいの時間なのに、何を戸惑っていることやら。急に離れる宣言されたからって戸惑いすぎだろう。 少しずつ落ち着いて、悲しい気持ちになったことすら恥ずかしく思えてきて、ゆっくり体を離した。 「わかってるって。ワガママ言ってごめん」 「まだお前に紹介していない奴だから、あとで改めて紹介する。だから、少しだけ俺に時間をくれ」 「うん、わかった、ごめん」 目が合うと、すぐに唇を重ねられた。 「そのかわり、ハニーの気持ちは、今晩きちんと受け止める」 俺の左手を掬うように取り、親指と人差し指で指輪に触れられる。 「離れている間も思い出させてやろう、俺の感触、体温、全てを」 指輪に触れられると、自分が彼の何なのかを改めて自覚させられる気がしてくる。

ともだちにシェアしよう!