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第71話

「まぁ、うん、悪いやつじゃない」 どうも歯切れが悪いのを責め立てる気にもならなかったのは、俺が本当に彼のことを信頼していたからだった。 「ん。そっか、お前がそう言うんなら間違いないな」 それっきり何も聞かずにいると、不思議と泣きそうな顔をして、俺のことを抱きしめてくるのだった。 そんな翌日。 ワイシャツに適当なスラックス。ここで一番ラフな格好をした彼が、いつもは寝坊するくせにキチンと早朝に目を覚まして着替えを済ませた。午前9時に教会前で待ち合わせなんだそうだ。 「じゃあ行ってくる。すまない、少しの間離れるが」 「もーわかったって、大丈夫だってば」 かたや俺の方はと言えば、素っ裸に適当にバスローブ羽織ったくらいで。一晩も経つと、あんなに寂しかった気持ちがどうでもよくなっていた。多分、昨日のものすごいセンチメンタルな気持ちの原因は、夜だったことと酒に酔ってたことだったんだと今になって思う。 「あぁハニー、本当にすまない……」 かえって、泣きそうな顔をしている彼を心配する余裕すらあるのだった。 「だからいいってば、さっきも言ったけど、俺は今日は城の中散歩するから大丈夫だって。お前も城の中にいるんだろ? 遠くに行くわけじゃねぇだろ」 「そうだが、しかし」 「しかしじゃないって、離れ離れじゃないから心配すんな。な?」 ほんとガキンチョみたいで困っちまう。けれど俺が、そんなに言うなら一緒に行こうか?と聞くと、頑として首を縦には振らない。 「いいや、俺は1人で行かなくてはならない。約束したんだ」 「そうかよ。じゃあ行って来い、ほれ」 ぽんぽんとお尻を軽く叩いて、追い出すみたいに部屋から出した。もう8時50分、迷ってまっすぐたどり着けないことを考えると、もうそろそろ行ってもらわないと遅刻する。 「……ふぅ」 朝、家族を送り出し後の専業主婦ってこんな感じなんだろうか。やっと一息つけるって感じ。

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