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第72話
散歩するとは言ったものの、もちろんそのつもりはあるものの、何のとっかかりがないことに気づいてちょっとぼんやりした。
馬鹿でかい城だってことはわかる。歴史ある城だってこともわかる。ものすごい観光地だってこともわかる。
(館内パンフレットみたいのもらえんのかな)
唯一よかったことは、結婚式で館内貸切にしているために、観光客やおかしな奴が紛れ込んでるわけじゃないってことだ。
(いや、でもパンフレットくださいって言ったら笑われる?)
王侯貴族が闊歩する館内で、アホみたいに「パンフレットください」ってちょっと恥ずかしい。とはいえ完全に一般人の俺は、この城どころか国のことすらろくに知らないわけでして。
(……ま、恥ずかしがってても仕方ないし、もらうか、パンフレット!)
ここは観光客気分で。変な小日本人がパンフレットくださいって言ってたって裏口叩かれたっていいわこの際。何言われたところで、それが世界で第3位の大富豪の妻なんだから。
変なところをすぐ開き直るのが俺のいいところでダメなところ。自覚はあるけど治らないから仕方ない。
ホテルだから一応内線みたいなのがあるんだけど、ここのホテルの内線は、いわゆるデルビル電話機というやつなのだった。
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