73 / 180

第73話

昔の電話みたいな感じっていうんだろうか、受話器部分を直接耳に当てて、話すときは壁に付けられたラッパみたいなやつに直接話しかける。 部屋の隅にあるその設備に一人で話しかける姿は、我ながら客観的に見ても滑稽だった。 「Hello」 キリッとした声の男が出た。 「あー、すいません、あの、ここの城の観光パンフレットってありますか? 中散歩したくて。式に招待されてた者なんですけど、えーと部屋は3階の」 部屋番号を伝えると、すぐに声が弾む。 「この度はご宿泊ありがとうございます! もちろんございますよ、興味を持ってくださいましてありがとうございます」 「あ? はぁ、はい」 「ただ今パンフレットをお部屋の方にお持ちいたします!少々お待ちください!」 と言った瞬間に電話をガチャ切りされた。それにしてもテンションが高い。 お待ちくださいって言われたからには待つしかないのか、とソファに腰掛けてみたけれど、本当にすぐに部屋のドアベルが鳴らされた。 「お待たせいたしました! こちら、パンフレットでございます。良い旅を!」 いい笑顔の背の高いボーイだった。良い旅をって言いながらウインクして去って行く。

ともだちにシェアしよう!