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第79話

王子様はゆっくりと俺の方に近づいてきた。場所のせいか服装のせいか、それとも見慣れたせいか。初めて廊下で見かけた時、そして結婚式の時に見かけた時みたいな強い眼差しや高圧さは感じない。けれど、なんか孔雀が歩いてきたみたいなゴージャスなオーラを感じる。俺なんかカワウソとかタヌキとかみたいに、間抜け面でぽかんと立ち尽くしてしまう。 ゴージャスさはすぐそばまで来ると、圧迫感に変わった。香水とはまた違う、周囲の空気に漂うなんとも言えない優しくて甘い良い香り。モデルばりの綺麗な顔立ち、そして俺よりも高い身長。圧迫されないわけがない。 「ご機嫌よう。写真も満足に撮れないみたいだね。機械には弱いの?」 喋り方は優雅だけど、言ってることはかなり失礼。 「あなたの夫は有名な経営者だったよね? そのスマホはあなたの夫の会社のもの?」 しまいに質問ぜめ。 「そう、ですけど」 完全に腰が引けたまま、小さく呟くように返した。 「そうなんだ。それなら僕と一緒だ」 「……はぁ」 「あなたとは機種は違うけど」 「……」 王子様は独特の空気感を醸し出していた。ふんわりと微笑んでいるけれど、なんかちょっとズレてるっていうかゆったりしてるっていうかバカっぽいっていうか、うまく言葉には表せない。悪いやつではなさそうだけど。

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